「年功序列=悪」は本当か? 三井住友銀行が堂々と廃止できたワケ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
三井住友銀行は、2026年1月をめどに人事制度を変更し年功序列を廃止する方針を示した。年功序列や長期雇用は過去のものと考える人も少なくないが、こうした制度にはそれぞれの利点がある、ではなぜ、三井住友銀行は年功序列を廃止するのか。その真意に迫る。
なぜ、三井住友銀行は年功序列を廃止するのか
では、なぜ今回、厳しい経営環境にあるメガバンク、三井住友銀行は年功序列廃止を宣言したのか。本当に年功序列の廃止宣言をして、大丈夫なのか。
「そんなの優秀な若い社員に辞めてほしくないからに決まってるじゃん」
「そうだよ。自分より働いてないおじさん、おばさん会社員が、高い給料もらってるなんて、やってられないでしょ?」
「メガバンクの古いイメージを変えて、優秀な学生を集めたいんでしょ」
「メガバンクとか、もうあんまり人気ないしね」
――といった声が聞こえてきそうです。確かにそういう側面もあるかもしれませんが、答えは「ノー」。
メディアが「ほら! すごいこと決めたぞ!」と報道をするような企業には「社員一人一人の力を引き出して、一丸となって戦える集団でいなきゃ会社はつぶれる」という危機感があります。
トップの「すべての社員が生き生きと働く職場を作りたい」という熱い思いを実現するために、時間と手間をかけ、一人一人の社員と向き合い、共に考える努力をし、誰一人取りこぼさない制度を、蜘蛛の巣をはるように会社の隅々まで作り上げています。
今回の三井住友銀行も例外ではありません。「年功序列廃止」は、年齢や性別に関係なく、全ての社員の能力を発揮できる機会を作るために作った新しい人事制度のあくまでも一部なのです。
新聞やテレビで大きく取り上げられた「年功序列の廃止」と「若手の高賃金」以外にも、新しい人事制度には、「シニア層の一律減給廃止」や「転居ある異動の可否を選択可能」など、「人生も仕事も大切にしてほしい」という会社側のメッセージを感じる制度が含まれています。
とかく年功序列の恩恵を受けてきたシニア社員は、50歳になった途端会社から用無し扱いされ、55歳を過ぎると役職定年になり、60歳を過ぎると賃金を減らされるなど、「誰からも期待されない働き方」を余儀なくされてきました。
三井住友銀行も例外ではありません。
これまでは51歳の誕生日を境に、重要な管理職に就いている行員以外は、一律で給与を引き下げていました。しかし、今後は「シニア層の一律減給廃止」し、51歳以降でも実績に応じて給与が上がったり、昇進したりが可能になります。60歳代になっても、支店長に就けるようになるそうです。
これは「年功序列のプラス面」、すなわち「長い時間をかけて花開く能力」を無駄にしない取り組みであり、“いっちょ上がり感”が高まる50代の社員でも、「自分で限界を設けなければ、可能性は無限大に広がっていく。その機会を会社はちゃんと準備してます!」というエールです。
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