東急の「自動運転バス実証実験」に京急バスも参加、成果と課題が見えてきた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
東急と東急バス、京浜急行バスが自動運転バスの共同実証実験を行った。川崎市麻生区の虹が丘営業所エリアと横浜市金沢区の能見台営業所エリアで実施。遠隔コントロールセンターは、横浜みなとみらい地区の京急グループ本社ビルに設置。運転席に運転者が座り、常時状態監視を行う「自動運転レベル2」である。
能見台エリア:自動運転バスが子どもたちに人気で……
能見台は京急グループが大規模な宅地開発をした地域で、グループ全体の新しい価値創造事業の重要拠点となっている。能見台駅から広大な住宅地が広がり、バスの路線網があること、坂道が多いことなどが虹ヶ丘・すすき野エリアによく似ている。能見台営業所で聞いたところ、京急グループの主要な事業エリアとなっている横須賀市、三浦市、葉山町、逗子市も、エリア内に歩道の幅員が狭いところが多く、路線バスにとって道路環境に恵まれているとはいえないという。
だからこそ、京急バスもラストワンマイルの交通整備が必要だと考えていた。横須賀リサーチパーク(YRP、IT関連の工業地区)では自動運転の実証実験も行われたけれども、大学の研究が主体で、京急バスはレベル2要員のドライバーを提供するにとどまり、自社としては成果を得にくかった。そこで東急バスの呼びかけに応える形で事業に参加し、経験と知見を得たい。これが京急バスの参加の経緯とのこと。
「能見台エリア」はかなりテクニカルな設定だった。歩道付きのバス通りもあれば、車がやっとすれ違えるような細い道もある。しかも後半は小学校の通学路だ。そんな道を小さなEVバスがゆっくりと通り抜けていく。公園の入口に保護者と思われる女性が立っていた。事前に学校関係者や町内会などに連絡したそうで、やはり心配なのだろう。
EVバスは東急が保有する車両だ。前回の実証実験で「虹ヶ丘・すすき野エリア」を走っていた。「能見台エリア」を走るに当たり、こちらは京急バスのキャラクター「けいまるくん」を掲げている。私が試乗した時間帯は午後2時ごろで、ちょうど小学校低学年の帰宅時間帯だった。通学路に変わった形のバスがやってきてゆっくり走る。小さくて丸くてかわいい印象もある。そこに「けいまるくん」というフレンドリーなキャラクターがあるせいで、バスが子どもたちに取り囲まれてしまった。当然ながら手動運転に切り替える。「愛される姿も良し悪しですなあ」と添乗員も苦笑いだ。
「能見台エリア」の「信号連動」は1カ所のみ。ほかの交差点は全て一旦停止し、運転者の確認ボタンを押して発車する仕組みだ。どちらかというとEVバスの挙動と一般車両との協調運行の確認が主のようだった。途中の比較的道幅の広い場所で、駐車車両を自動で避けるモードを試そうという話になって挑戦してみたけれど、すぐに対向車が来てしまって中止となった。とにかく安全第一である。通学路を含め、手動運転が多めだった気がする。苛酷なコースだから仕方ない。これも貴重なデータとなったはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「東急の自動運転バス」実証実験2回目、真の目的と課題が見えた
東急と東急バスが、3月に多摩田園都市エリアで自動運転バスの実証実験を行った。2回目の実験で、今回は新たなルート。一般試乗客を募り、LINEでの予約システムの実験も行われた。安心・安全を強化するため、車内外の遠隔監視システムの運用実験も行われたが、サービス提供にはまだ課題がある。
東急バスのEV自動運転バス 当面の目標は「路線バスの先」にある
東急と東急バスが9月13日〜15日に多摩田園都市の住宅街で「自動運転モビリティの実証実験」を実施した。実験コースは横浜市青葉区すすき野付近で、反時計回りに4つの信号機付き交差点を巡って戻る。使用車両は8人乗りの小型バス。この小さな車両が選ばれた理由から、課題が見える。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。



