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「事業の複線化」が奏功 急成長のVisional、ビズリーチの次に狙うのは?CEOの意志

Visionalが事業の複線化を進めてきた歴史と、新規事業の立ち上げを成功させてきた秘訣を、南壮一郎CEOとアシュアードの大森厚志社長に聞く。

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連載:対談企画「CEOの意志」

 上場後のスタートアップの資金調達やIR支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCEOに企業の成長の歴史や、CEOに求められることなどを聞く。

 今回はビズリーチなどを展開するVisionalの南壮一郎CEOと、Visionalのグループ企業でサイバーセキュリティ領域の事業を展開するアシュアードの大森厚志社長との鼎談でお届けする。

 南CEOは、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイトのビズリーチを2009年に創業。5年目以降は事業の複線化を進めて急成長を遂げてきた。根底にあるのは、社会の課題を解決する新規事業をつくり出していくことだ。一方で、南CEOの下で新規事業を立ち上げたのが大森社長だ。2015年に新卒で入社して、クラウドサービスの安全性を可視化するセキュリティ評価プラットフォームのAssuredを2022年に立ち上げ、軌道に乗せている。

 Visionalが事業の複線化を進めてきた歴史と、新規事業の立ち上げを成功させてきた秘訣を、南CEOと大森社長に聞く。


左からグロース・キャピタルの嶺井政人CEO、Visionalの南壮一郎CEO、Visionalのグループ企業でサイバーセキュリティ領域の事業を展開するアシュアードの大森厚志社長

ビズリーチ創業5年目から周辺の事業領域に投資

嶺井: Visionalグループは、現在ビズリーチやアシュアードのほか、物流事業やM&A事業など、複数の会社を擁しています。南CEOから事業の複線化を進めてこられた歴史をご説明いただけますか。

南: 企業とプロフェッショナル人材を直接つなぐ、ダイレクトリクルーティングの転職サイトを2009年にスタートしました。当時はまだスタートアップという言葉すらなく、1億円を調達できたら奇跡と言われた時代です。

嶺井: ビズリーチは創業以来ずっと黒字ですよね。

南: 利益を出しながら、その利益を再投資していく形で拡大してきました。5年目くらいでビズリーチ事業が生み出した収益をビズリーチに再投資したところ、それでも黒字が出てきそうだったので、追加で出てきた黒字からビズリーチ周辺の事業領域へ投資し始めました。

 ビズリーチは採用を通じて企業と外部の労働市場をマッチングするプラットフォームです。今度は社内の人材に関わる部分に目を向けました。後に言葉ができた人的継承や採用などの人材活用から、勤怠管理、給与システムなど、社内の人事にまつわるものをクラウド上でプラットフォーム化する形で、人的資本のエコシステムをつくっています。

嶺井: このエコシステムが、「HRMOS」(ハーモス)ですね。

南: 創業10年目頃になると、HRMOSで提供していきたい道筋が見えてきて、採用、タレントマネジメント、勤怠、経費など、さまざまなモジュールの立ち上げや提供が進んできました。そこから、自分たちの強みを生かして、新しい事業領域をつくっていこうと考えました。そのうちの一つがサイバーセキュリティの事業領域であるアシュアードです。当時、大森さんが社長室にいて、どの領域の課題に取り組もうかと2人で壁打ちをしながら考えて、プロジェクトを立ち上げました。

嶺井: ということは、最初からセキュリティの領域で新規事業を起こそうと動き始めたわけではないのですか。

南: 私たちが新しい事業を考えるときには、社会課題の解決をテーマにします。人口動態などを含めた社会の構造変革と、テクノロジーの進化によって生まれるひずみのようなものが社会の課題になりやすいので、そこをきっちりと捉えます。

 同時に、自分たちが事業運営をする中で、会社の中でもいろいろな課題が出てきます。そういうものを掛け合わせて、サイバーセキュリティの領域にチャレンジすることを決めました。これが2019年頃ですね。


Visionalの南壮一郎CEO

2015年に入社 2022年にアシュアード社長に

嶺井: 大森社長は2015年4月に新卒でビズリーチに入社されています。Visionalの従業員は現在2000人を超えていますが、内定を得た頃はまだ100人ほどですよね。テレビCMも放送していなくて、ハイクラスの人たちの転職サービスとして一部の人に認識されていたくらいだったと思います。心配などはありませんでしたか。

大森: ビズリーチに入社を決めた理由は、人材業界に興味があったというよりも、新しい仕組みをつくっていることに強い関心を持ったからです。新しい仕組みによってビジネスが変わり、世の中が変わる。これはすごく面白いなと思って、飛び込んで挑戦したいと思いました。

 ただ、周囲からは反対されましたね(笑)。当時は会社がどうなるのか、よく分かりませんでしたから。ただ、将来の姿が想像できる会社だと、何年かたった後の自分の姿も予測できます。それよりも、想像できない方を選びたいという思いが強かったですね。

嶺井: それからアシュアードの社長に就任するまでは、どのような流れだったのですか。

大森: 1年目でマーケティングや企画職を経験しました。2年目に官公庁とビジネスをする組織が立ち上がって、新しい領域での新規事業の立ち上げに取り組むようになりました。最初は別の領域の事業を進めていたのですが、2019年に一度終えて、それから2020年にたどり着いたのがサイバーセキュリティの領域です。

 Assuredは、SaaS、ASPなどのクラウドサービスの安全性を可視化する事業です。格付けのようなものを想像していただけると、分かりやすいかもしれません。各サービスが日進月歩で変化する中、サービスの状況を確認し解析するコストは膨大になっています。そこで、利用者には各サービスの安全性を、運営する企業にはお客さまに信頼されるセキュリティレベルを開示するプラットフォームを目指して、2022年1月に正式リリースしました。


アシュアードの大森厚志社長

新しい事業領域は社会課題と市場で判断

嶺井: Visionalはビズリーチ事業から始まって、HRMOSのエコシステムをつくったほか、M&AマッチングサイトのM&Aサクシードや、物流DXプラットフォームのトラボックスなど、いろいろな領域にチャレンジされています。新しい領域はどのように選定されているのでしょうか。

南: 社会の大きな課題であることと、そこに大きな市場があることがまず大前提です。社会課題の情報源として、政府や研究機関の資料をかなり読み込み、そこで気になった社会課題と向き合っているスタートアップや企業がないのかを、インターネットで世界中から探します。

 ただ、インターネットの情報は二次情報です。一次情報を集めるために、取り組んでいる企業が見つかったら直接話を聞きに行きます。IT分野の場合は米国で進んでいるケースが多いので、海外の企業も訪問します。その企業の社員だけでなく、元社員にもお会いしますし、業界の一番手に限らず二番手、三番手の企業にも話を伺います。さらに投資家にも、この領域に投資した理由、もしくは投資していない理由を聞くなど、網羅的に一次情報を集めて持ち帰って検討していますね。

嶺井: Assuredの事業領域も、同じように情報を集めて検討したのでしょうか。

南: 大森さんと壁打ちをしながら、同じプロセスを経ています。持って帰った情報を解析して、日本ではどういうプレーヤーがいるのかをリサーチし、その領域が抱える課題を検討しました。

大森: 社会的な課題の大きさや、ビジネスとしての可能性がどれくらいあるのかを、南さんと週1回くらいは壁打ちしていました。市場と向き合うことも大事ですけど、自分自身のアンテナというか、感度を大切にしながら、これに取り組めば社会に対して大きなインパクトを生み出せそうだなと思う方向でリサーチしたことが、領域を決める上では大きかったですね。自分が創業者として始めて、5年や10年をかけてでもコミットメントしたいと思える分野を重視しました。


グロース・キャピタルの嶺井政人CEO

事業内容を決定する前からエンジニアを採用

嶺井: 領域を決めて新規事業を立ち上げるまで、どのような時間軸で進めているのでしょうか。

大森: この領域でいいかどうかを決める議論は、ピン留めしてから3〜4カ月くらい続けたと思います。議論をより深めていくときに、エンジニアの採用を始めました。

嶺井: 事業の内容が決まっていないのに、先に採用をするのですか。

大森: この点は他社と比べても特殊だと思います。事業の立ち上げに向けてさまざまなことを進めていきますが、その事業が本当に花開くかどうかは分からないですよね。スタートアップでもピボットすることは当然あり得ます。その際に、事業の領域は変わるかもしれない一方で、人は変わらないですよね。私はビジネス職だったので、ものがつくれるわけではありません。創業者や経営陣にものをつくれる人がいないと何もできないですから、この時点から採用活動を始めています。

嶺井: でも、事業内容が決まってから動いた方が採用しやすいのではないでしょうか。これは南CEOが大森社長に伝えたことなんですか?

南: そういうものだと伝えました。事業の壁打ちをしている段階でも、自ら採用市場に出ていって、自分とは違うようなタイプの方と面談しながら、自分のアイデアを固めていくプロセスがすごく大事です。同時並行していくことで粒度が高まり、より本質的なところにたどり着けます。

 なぜかというと、アイデアは1人だけではできないと思っているからなんですよ。最初からこういうものをつくりたいと思っても、どっちにしても変わっていきます。創業メンバーを集めるプロセスを通じて、そのメンバーにも課題を認識してもらって、一緒に考えて、一緒に立ち上げた方が良いビジネスになると思っています。だから、大森さんにも同じことを要求しました。

大森: 実際にビズリーチも、2009年の創業前のタイミングで竹内真さん(現:Visionalグループ CTO)が入ったことによって、事業が加速したことを私自身も知っていたからこそ、やってみようと思いました。

 結果として、プロダクトのことが分からない中で、信頼して背中を預けられる強い仲間を得ることができ、最初にリリースしたときの事業の精度が高かったことで、ピボットせずに済みました。

嶺井: ちなみに、スタートアップは一つのことに集中すべきといった考え方があります。ビズリーチもまだ5年目のタイミングで、もっとビズリーチ事業に集中するといった議論もあり得たと思います。それでも事業の複線化を考えたのはなぜでしょうか。

南: これは経営者の性格というか、得意不得意に付随するものだと思っています。自分自身は0から1を生み出すこと(ゼロイチ)が得意な経営者です。私の役割はゼロイチしかやらないと決めたのが自分の経営スタイルなので、新しい事業を立ち上げることが自分の会社にできる最大の付加価値だと考えています。もっと言うと、それができなくなったら自分で自分を退出させます。そこは創業期から明確です。

 そのかわり、1を10にする、10を100にする部分に関しては、できる限り仲間を信頼して、応援する立場を取ります。自分も含めて、事業よりも上に立つ人間はいないと思っているので、会社のために、事業のために何ができるのかについて真摯(しんし)に向き合うようにしています。今はアシュアードと大森さんのために何ができるのかということを大切にしながら、時間を費やしているところです。

嶺井: 南CEOと大森社長の話からは、新しい領域に取り組むためにも、経営人材を育成することの大切さがうかがえます。後編では、南CEOが大森社長をはじめとする経営人材をどのように育てているのかについて聞いていきます。

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