ドクターイエローはなぜ生まれ、消えていくのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
「幸せの黄色い新幹線」こと、ドクターイエローが引退する。JR東海とJR西日本の発表によると理由は老朽化。そして今後は新しいドクターイエローはつくらず、営業車両N700Sで計測を実施するという。そこでドクターイエローの誕生から引退までを振り返り、営業車両での計測について考えてみたい。
営業車両で計測するとは?
ドクターイエローの引退を発表した翌日の6月14日、JR東海は「東海道新幹線 N700Sの追加投入について」という報道資料を公開した。外観や走行性能は変わらず、新しいサービスとして「個室」が登場する。また折り返し駅の清掃整備を省力化するため、一部の車両を除いて座席の自動回転機能を搭載する。これはJR東日本のE7系や九州新幹線800系にも採用されている。“シンカンセン”に乗る訪日外国人をビックリさせるだろう。
そしてこの「新型N700S」は、「ドクターイエローの機能」と「新たな計測機能」を搭載する。つまり新たなドクターイエローより高性能な検査・計測を、N700Sの営業車両で実施できるようになった。ドクターイエローは「月に3回のぞみダイヤ計測」「3カ月に1回のこだまダイヤ計測」だったけれども、営業車両は毎日走る。1日数回の測定が可能になるという。年間40回から、年間2000回以上の検査測定が可能だ。
実は在来のN700Sも、2019年から「軌道状態監視システム」を6編成に搭載していた。先頭車両に加速度計を設置して、レール形状の上下方向の変化を検知。通信回線を使ってリアルタイムに中央指令所へ送信する仕組みだ。2018年からバージョンアップして、加速度計、ジャイロセンサー、レーザー光測定器を搭載し、レールの左右のズレ、左右レール間の距離、左右レールの高低差も検知できるようになった。
2021年からはN700S営業車両3編成に、トロリ線(架線)状態監視システム、ATC信号・軌道回路状態監視システムが追加された。これでドクターイエローの機能のほとんどを代替できる。新たなドクターイエローを製造しない代わりに、営業車両のドクターイエロー化を虎視眈々と進めてきたわけだ。
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