映画『ルックバック』成功から浮かび上がる、集英社の思惑とは:エンタメ×ビジネスを科学する(2/4 ページ)
動員数59万人、累計興行収入10億円を突破した『ルックバック』。同作の成功から、新たなメディアミックスの潮流を読む。
『ルックバック』のメディアミックス戦略に見る、3つの特徴
アニメ『チェンソーマン』は制作会社の単独出資で製作されたのに対して、『ルックバック』は製作委員会方式で作られている。同委員会はアニメ制作会社のスタジオドリアン、出版社である集英社が中心となっており、そこに消費者とのチャネルを持つ企業が加わっている。この座組を見るに、映画公開が終わればそれほど間を置かずに配信サービスで全世界へ公開されると思われる。
このルックバックの展開で特徴的といえる点は下記の3点である
- 「日常消費」と「非日常消費」の連携
- 映画館での鑑賞を促進する特典
- 読み切り作品のアニメ化と展開方法
まず1つ目について。確固たる人気を獲得している漫画家による150ページ近くに及ぶ長編読み切り作品が、期間限定とはいえ無料で公開されたこと自体が珍しいことである。しかし注目すべきは、「日常消費」にあたるコミックアプリの無料公開から、「非日常消費」の特性を持つ映画館上映へうまくつなげたことだ。
漫画・アニメ共に抱えている課題であるが、日常的にアクセスできるチャネルからは大きな収益を見込みにくい。一方で、非日常消費のチャネルのみでは、知名度を上げることに課題を抱える。そのため、日常消費のチャネルで知名度を獲得し、非日常消費へ誘導することが、コンテンツビジネスを成長させるための方策となる。その非日常消費への誘導促進策として導入されたのが2つ目の特典だ。
本作は映画館への入場特典として、原作ネームの全ページを収録した「Original Storyboard」を配布している。原作漫画のネーム全ページ分が特典となる例は珍しいといえる。これは、製作委員会に集英社自らが参画しているからこそ実現した特典だろう。
原作ファン、そして藤本タツキ氏のファンであれば是が非でも手に入れたい一品であり、多くの人が映画館へ足を向ける要因となったことは間違いない。
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