「トヨタが日本を見捨てたら、日本人はもっと貧しくなる」説は本当か:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
トヨタ自動車の豊田章男会長が囲み取材で発した心情が話題になっている。中には「トヨタが日本を見捨てたら日本人はもっと貧しくなる」といった論調もあるが、果たして本当なのだろうか。
日本人が「低賃金労働者」から抜け出せない理由
つまり、日本人が貧しさに歯止めがかからないのは、「サービス業の小さな会社で働く日本人」という圧倒的な多数派が「低賃金労働者」から抜け出せないことが大きいのだ。
だから、トヨタが5兆円の営業利益を出そうとも、過去最高の賃上げをしようとも「日本人の貧しさ」は特に変わらない。トヨタなんて大したことがないとかディスっているわけではなく、産業構造的にも労働者の比率的にも影響が小さいと申し上げているのだ。
このような話をすると、「トヨタのような巨大企業が元気になれば下請けや関連企業も元気になって、そこで働いている膨大な数の従業員が金をじゃんじゃん使って日本全体の景気が良くなるんだよ、そんなことも分からないのか?」などとお叱りを受けることが多い。
ただ、筆者としては、そういう「風が吹けば桶屋がもうかる」的なザックリとした経済観こそが日本を貧しくさせた「元凶」だと思っている。今回あえて指摘をさせていただいたのも、それを問題提起したいからだ。
今、社会で働く人の多くは子ども時代、学校教育で「戦後の焼け野原から世界第2位の経済大国になれたのはトヨタやホンダやソニーなど技術力のある企業がどんどん成長して、世界的大企業になったからです」と教えられてきた。
ただ、これは典型的な「日本人の好みに後付けしたサクセスストーリー」だ。
「1人当たりGDP」がある程度同じくらいの水準になった先進国同士の経済は、人口に比例する。日本が世界第2位の経済大国になったタイミングは、日本の人口がドイツの人口を追い抜いて、先進国で第2位になったからだ。
今、世界第2位の経済大国は中国だが、これについて「BYDやファーウェイの技術力が日本やドイツの技術力を抜いて世界的大企業になったから」なんて解説している専門家はほとんどいないだろう。中国は途上国ながら、「1人当たりGDP」もそれなりに高くなったことで、14億人という人口が追い風になっている。
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