「EV優遇廃止」派のトランプを、イーロン・マスクが“支援”する本当の理由:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
米国の大統領選では、イーロン・マスク氏がトランプ前大統領を支援することが明らかになった。EV政策で対立していたはずのトランプ氏を支援する裏には、ビジネスで理想を実現するための思惑がある。
“トランプ支持”がビジネスでプラスに
では、マスク氏はなぜトランプ氏を支持することにしたのか。実のところ、マスク氏の野望は、トランプ氏が大統領に復権した際にアドバイザー的な役割を担うことだと見られている。
というのも、テスラ以外にマスク氏が経営するスペースXやXの今後を考えると、明らかにトランプ政権を味方につけた方がいい。
例えばスペースXは、大型宇宙船「スターシップ」や宇宙ステーション関連の技術でもNASA(米航空宇宙局)と協力関係にあり、宇宙開発に前向きなトランプ氏を味方につけておくことはビジネスにおいてもプラスに働くだろう。
また米軍とも協力し、衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」が軍事分野にも導入されている。ロシアが侵攻したウクライナでも欧米の資金で導入されていたが、今は世界各地に展開する海軍などでも採用されている。日本の防衛省も導入しているくらいだ。また、数百基からなるスパイ衛星網も構築していて、すでに米情報機関と契約している。
このように世界を動かすビジネスにマスク氏はどんどん食い込んでいる。トランプ氏の政策にも影響を及ぼせるようになるのは願ったりかなったりだろう。組織にありがちな官僚主義をすっ飛ばすことができる。
Xについても思惑がありそうだ。トランプ氏が2021年に米議会襲撃事件を扇動したとして、自身のTwitter(当時)アカウントを凍結されて以降、同プラットフォームでは保守系アカウントの多くが凍結された。それによって、Twitterはポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)やウォーク(人権問題などに対して意識が高いこと)に関連する投稿が目立っていた。
そうした状況の中で、マスク氏はTwitterを買収。トランプ氏や凍結されていた保守系のアカウントを復活させた。当時マスク氏は、金もうけには興味がなく、「私がTwitterを取得した理由は、文明の未来にとって、暴力に訴えることなく、健全な方法でさまざまな信条を議論できる共通のデジタル・タウン・スクエアを持つことが重要だからだ」と述べている。
ところが、いまだにトランプ氏はXをほとんど使っていない。というのも、TwitterやFacebookから追い出されたトランプ氏は、自分で作ったSNS「Truth Social」をメインに使っているからだ。ただ今や「米国第一主義」の親分で、良くも悪くも話題に事欠かないトランプ氏が活発にXで投稿するようになれば、プラットフォームとしても活性化する。そこからも政策に関与できる、とマスク氏は踏んでいるのかもしれない。
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