欧米の製造現場でヒューマノイドロボット導入の動き 「人型」にこだわる本当の理由とは:AI×社会の交差点(2/4 ページ)
配膳ロボットにヒューマノイドロボット。AI企業がロボット産業に挑む理由とは?
「先端技術の象徴」から「未来の労働力」へ
ヒューマノイドロボットと聞くと、40代以上では「アシモ」を思い出す人も多いのではなかろうか。アシモは本田技研工業が開発した二足歩行ロボットである。二足歩行そのものが困難だった2000年代にこれを実現し、巧みに踊るなどのパフォーマンスを見せるアシモの姿は、文字通り「先端技術の象徴」だった。しかし現代のヒューマノイドロボットは工場での作業など実用性を兼ね備えた、“未来の労働力”として開発が進んでいる。
2024年1月、米国のスタートアップFigureは、ドイツの自動車メーカーBMW傘下のBMWマニュファクチャリングとヒューマノイドロボットの導入で商業契約を結んだと発表した。
プレスリリースによると、第1段階として自動車生産にロボットを適用するためのユースケースを探索し、第2段階として米国のサウスカロライナ州スパータンバーグにあるBMWの工場に導入するという。スパータンバーグの工場は、800万平方フィート(約74万平方メートル)に及ぶ広大な敷地に約1万1000人の従業員を雇用する、BMWにとっての一大生産拠点だ。
北米で唯一BMWミュージアムを擁するなど、欧州の自動車メーカーである同社にとって、米国の消費者に披露する場として“ショーケース”の役割も担う。工場見学のプログラムもあり、数年後には、ヒューマノイドロボットが活躍する姿をじかに見ることができるかもしれない。
ヒューマノイドロボットとAIの深い関わり
ヒューマノイドロボットの導入に関しては、2024年3月にメルセデスも動いている。米国のヒューマノイドロボットを開発するスタートアップApptronikとメルセデスが、商業契約を結んだのだ。
Apptronikのプレスリリースによると、さほどスキルが要求されないものの、肉体的に負担の大きい作業をロボットにより自動化するとある。おそらくは、自動車組立ならではの、非常に重いものを持ったり、運んだりすることを想定していると推測できる。Apptronikの開発するヒューマノイドロボットアポロは、NASAの火星探査用ヒューマノイドロボットValkyrieの開発で培った技術を商用化したものである。
アポロのスペックシートによると、実に55ポンド(約25キロ)もの重量物を運べるという。日本の労働現場の話になってしまうが、厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」の中で、荷物の重量を男性は体重の40%以下、女性は男性における制限の60%に抑えることを推奨している。体重70キロの成人男性なら荷物は28キロまで推奨、ということになる。
繰り返し荷運びする現場では、アポロのように25キロの荷物を運べれば十分に実用的であり、現場の労働力になる。Apptronikはまるで人間のように、丁寧に荷物を運ぶアポロの様子をイメージした画像を掲載している。
飲食店で導入が進む配膳ロボットをはじめ、にわかに注目を集めるヒューマノイドロボットも、AIと深い関わりがある。配膳ロボットには、自動運転などで培われた衝突回避のための画像認識技術をはじめ、あらかじめ作成した地図情報から現在の位置を把握する自己位置推定技術などが活用されている。
これにより、まるで1980年代のSF映画から出てきたように、人との接触を華麗に回避し、移動するロボットの開発が可能となった。これも、Googleのようなテクノロジー企業をはじめ、世界中の自動車メーカーが次世代の重要技術として莫大な予算を投じて自動運転の研究を進めた結果、関連技術が急速に一般化し、安価に調達できるようになった賜物(たまもの)である。
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