LINEは営業の生産性が「10倍」に 日本企業がRevOps導入を成功させる方法は? NTTデータが解説:今すぐ取り組むべき、RevOpsのススメ(3/3 ページ)
LINE社が実際にRevOpsを導入し、営業効果を「10倍」に引き上げた。日本企業のRevOpsは難しいとされているが、どうやって実現したのだろう。
RevOpsを駆動させるインサイドセールスの作り方
では、RevOpsを駆動させるインサイドセールスは、どのように実現していけば良いのでしょうか。
まず前提として、変化し続ける「顧客の状態」を捉えていくための要点を押さえる必要があります。
顧客の理解: 顧客を中心に、各所に散在する顧客を取り巻くデータを統合する
パーソナライゼーション: 顧客が求めるタイミング・顧客接点・アクションをデータに基づいて算出する
活動の質×量の追求: 中長期であらゆる顧客に質の高い価値提供をし続けるケイパビリティを獲得する
既にインサイドセールス機能が存在する場合の再構築時も含め、これらの要点を押さえることを前提に、以下のステップで「RevOpsを駆動させるインサイドセールス」を構築します。
(1)抜本的な収益・顧客体験の向上を目的に、各組織と連携可能なオペレーションを設計する
(2)オペレーションを支える基盤を構築する(各組織のテクノロジーとデータの統合を含む)
(3)構築したオペレーション基盤を基にインサイドセールスの実行体制を整える
(4)実行結果が当初の目的と合致しているか分析し、継続的な改善・再設計を行う
特に重要なのは(1)と(2)のステップです。マーケティング・フィールドセールス機能と対話を図りながら、RevOpsトリガーの要件を明確化した上でのオペレーション設計と、そのオペレーションを生産性高く実行し続けるための基盤を構築します。
オペレーション基盤の構築により、CRM・SFA・MAなどに散在する顧客データを統合し、テクノロジーに統合化されたデータをインプットすることで、パーソナライズされたアクションの実行・自動化を実現します。
つまり、この統合されたテクノロジーとデータが、顧客へのアクションの質と量を最大化するための基盤となります。この基盤がなければ、変化し続ける顧客ニーズを中長期的に捉え続け、漏れのないフォローを実現する役割をインサイドセールスは実現できません。RevOpsトリガーを機能させる上で要となるのは、このオペレーション基盤なのです。
なお留意点として、RevOpsを駆動させるインサイドセールスの構築時には、社内のテクノロジー・データをつかさどるIT組織や情報セキュリティ組織なども巻き込む必要があります。特にエンタープライズ企業の場合は、新たなテクノロジーの導入や顧客データを含め、既存テクノロジーと連携させるためのセキュリティ基準が厳しいため、当該組織との早期調整が必要となります。
RevOpsを駆動させるインサイドセールスの構築のステップをお伝えしてきましたが、構築する上で以下のようなハードルが存在するのも事実です。
(1)収益プロセスの全機能(マーケティングやフィールドセールスなど)・テクノロジーへの理解
(2)オペレーション設計・基盤構築における先進テクノロジーの目利き・既存機能との連携・統合
(3)テクノロジーの進歩や市況変化に伴うオペレーション設計・基盤のアジャイルな改善のループ
(4)(1)〜(3)の実現および改善を重ね続けていくためのケイパビリティ・リソースの自社内での確保
これらの解決策として、われわれが着目しているのがBPS(Business Process Services)の活用です。
BPSとは、まだ市場で明確な定義が定まってはいないのですが、従来の業務をアウトソースするBPO(Busuiness Process Outsourcing)の進化系と言えます。
筆者らはBPSの定義を、先進テクノロジーを活用したオペレーション設計などの「企画」から「実行」および、実行後の「改善」を含めた一連のマネジメントサイクルのアウトソースと捉えています。
第1回でもお伝えしましたが、海外ではこのBPSに類似した概念であるビジネスプロセスそのものを外注するBPaaSが注目を集めています。ある報告書ではBPaaSのグローバル市場規模は2035年には約200億ドルに達する見立てもあります。
この流れは、指数関数的なテクノロジーの進化や市況の変化と比例して高まる「内製の難易度やリスク」を踏まえると、必然の結果であるとも考えられます。
前述したPoCの結果も踏まえ、トップダウン型でのRevOps実行が困難な日本企業においても、ボトムアップ型かつ「RevOpsを駆動させるインサイドセールス×BPS」というアプローチを通じて、スモールかつクイックにRevOpsの実行に取り組んでいけることを確信しています。
将来的にはRevOpsの実行・推進自体もAIが担うように
これまでの連載において、第1回はRevOpsの必要性を説き、第2回は日本企業のRevOps実行に向けた障壁を、第3回となる今回はRevOps実行をブレイクスルーするインサイドセールスと、外部委託についてご紹介しました。
従来のRevOps実行においては、高度な専門知識をもったRevOpsスペシャリストやデータサイエンティストを雇用し、高いコストと多大な時間を引き換えに、愚直な取り組みを継続し続ける必要がありました。しかし、SEPやAIなどRevOpsの実行を支援するテクノロジーの拡充が進んだことで、実行の難易度が徐々に緩和されつつあります。
加えて、今回ご紹介した新たなアプローチを取り入れれば、着手自体が困難であったRevOps実行の取り組みを開始し、その実現性を飛躍的に高めることができるでしょう。
次回は、昨今において飛躍的な進化を見せる生成AIの潮流を鑑み、RevOpsの実行および推進をAIが担う未来について、Magic Momentの予測をお伝えします。
宮地 貴照 株式会社NTTデータ
テクノロジーコンサルティング事業本部 デジタルサクセスコンサルティング事業部 部長
NTTデータ入社後、CRM/マーケティング分野を中心にデータ活用領域のコンサルティング、ビジネス開発に従事。主に、通信、保険、デジタルコンテンツ等の業種を担当。現在は、企業のデジタルテクノロジーを活用した顧客体験価値向上・変革を支援する「CXイノベーション」の企画と、さまざまな業界企業への展開をリード。
村尾 祐弥 株式会社Magic Moment
中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINEやUSEN、TOPPAN等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
デジタル化の先に進めない日本企業 「RevOps」を阻む3つの壁とは?
RevOpsが日本企業にも浸透し始めている。しかし、デジタル化の先に進めない日本企業が「RevOps」を実行するには、さまざまな障壁がある……。
「THE MODEL型」の弊害はAI活用にも 米国の営業組織が重要視する「RevOps」とは
AI活用が急速に進む中、注目度が高まるRevenue Operations。米国では注目度が高まっていますが、日本でも根付くのでしょうか?
案件減らし売上2倍に アドビの最強インサイドセールス部隊は、いかに大口受注を勝ち取るのか
アドビでは、約2年ほど前からBDRを強化している。明確に絞ったターゲット企業からの受注獲得に注力した結果、とあるチームでは≪案件数が半数以上に減少したにもかかわらず、受注金額が倍増≫した。インサイドセールスは「若手の登竜門」として新人が多く配置されるケースが多いが、同社のインサイドセールス組織は一味違うという。
「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性
日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。一方昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。
シンプル・イズ・ベスト Sansanがたどり着いたインサイドセールスの最適解とは?
Sansanのインサイドセールス部門が2023年12月に大幅な組織改革を実施した。顧客の従業員規模をベースにした「シンプル」で「分かりやすい」組織にしたという。組織体制を変更し、どのような変化があったのか。
2年分のアポをたった半年で獲得、なぜ? TOPPANデジタルのインサイドセールス改革
リードの40%が商談化するインサイドセールス「BDR」の立ち上げ方 8STEPをじっくり解説
採れない、育たない、続かない……データから読み解くインサイドセールスの深刻な課題
「転職者が相次いで人手が足りない」「せっかく人材を確保できても、戦力になるまでに時間がかかってしまう」……インサイドセールスでは、長年深刻な人手不足が続いています。今回の記事では、さまざまな企業が公表しているインサイドセールスに関する調査データを紹介しながら、この業種の抱える構造的な課題について触れていきます。




