【独自】大塚食品の報復人事訴訟 「不正告発後、仕事を取り上げられ孤立」告訴人インタビュー:働き方の「今」を知る(4/4 ページ)
「ボンカレー」や「ジャワティ」などの製造販売を手掛ける大塚食品。このほど同社工場で品質管理を担当していた男性A氏が、内部通報をしたことにより会社から異動を命じられたうえ理不尽な環境での勤務を強いられ、うつ病を発症したなどとして、会社に慰謝料などを求め地裁に提訴した。これまでまだ明かされてない大塚食品の内情や、A氏の思いも踏まえた独自インタビューをお届けする。
悲惨な結果の数々――内部告発事例から見る問題の根深さ
本件のみならず、内部告発者が「報われない」どころか、「悲惨な運命が待ち構えている」かのようなケースは多い。大きく報道されたものだけでも次のような事件が想起できる。
雪印食品牛肉偽装事件(2001年)
豪州産牛肉を国産と偽装し、国からの助成金を騙し取ろうとした雪印食品を、取引先の倉庫会社社長が告発。一大スキャンダルとなり雪印食品は解散するが、他社も同様の偽装をしていたため、畜産業界全体を敵に回す形となった倉庫会社の取引先は激減。さらに「雪印食品と共謀して在庫証明を改竄(かいざん)した」として営業停止命令を受け、休業を強いられた。
ミートホープ食肉偽装事件(2007年)
食肉加工大手企業が、「牛100%」をうたいながら豚肉を混ぜたり、消費期限切れ商品にラベルを貼り替えて出荷したりしていた実態を同社常務が告発。批判報道によって会社は自己破産したが、従業員は全員解雇となったほか、取引先からも「偽装商品を売りつけていたのか!」と批判を受け、取材攻勢に晒された元常務はそううつ病を患い、離婚、親族からの絶縁を言い渡された。
秋田書店読者景品水増し事件(2013年)
読者プレゼントの水増しや未発送を指示されたことについて是正を申し入れた担当者が、社内から執拗な嫌がらせを受け、適応障害を発症。休職期間中に会社から「読者プレゼントを発送せずに盗んだ」として懲戒解雇された。
JA自爆営業身バレ事件(2023年)
JA(農協)において共済(保険)契約のノルマが過大であるため、職員が不必要な契約を迫られる「自爆営業」の実態をTBS「news23」内で証言。しかし、証言した職員のインタビュー映像の加工が杜撰だったため、職場で身元が判明し、退職に追い込まれた。
補足とまとめ
なお昨今の事例として「大阪王将ナメクジ騒動」で告発者が逮捕された件が記憶に新しいかもしれないが、これは告発者が店側とトラブルを抱えていたゆえの腹いせであり、実態としては誹謗中傷に当たるとして偽計業務妨害罪で起訴されているので、この分類には入らないと判断した。ちなみに当該事案の詳細は過去記事「なぜ、大阪王将“ナメクジ騒動”告発者は逮捕された? 意外と知らない『公益通報』のあれこれ」にて解説しているので、ご覧いただければ幸いだ。
2022年6月1日に改正公益通報者保護法が施行され、常勤労働者数が300人を超える事業者には、内部通報窓口を設置し、通報された問題に対して迅速かつ適切に対応するとともに、通報者に不利益な取り扱いをしないことが義務付けられている。
ただし、違反したところで行政指導や勧告を受け、企業名が公表される程度ということもあり、あまり抑止力になっていない面もある。結果的に通報者が充分に保護されていないとすれば大いに問題といえよう。
近年は、公益通報や内部告発に期待できないからこそ、SNSや週刊誌を用いた暴露に至ってしまうケースも散見されるが、それらには告発者の身バレや懲戒リスクもあり得る。
制度がきちんと機能して不正が是正されるためにも、公益通報者への不当な扱いには厳罰で臨み、問題を起こした会社や責任者には確実に責任をとらせるようになってほしい。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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