小田急「ロマンスカー新型車両」が登場へ これまでの“常識”を飛び越えられるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
小田急電鉄が9月9日、新型ロマンスカー設計への着手を発表した。しかし報道向け資料に示された情報は少なく、実物写真や完成予想図もないため、鉄道ファンが予想合戦を繰り広げる事態となっている。そこで今回は「新しいロマンスカーが小田急電鉄にとってどんな役割を担うか」を考えてみたい。
50000形ロマンスカー「VSE」登場と早期引退
2028年に登場する新型ロマンスカーは、50000形「VSE」の後継とされる。
2005年に登場した「VSE」は、「白いロマンスカー」として知られている。展望席付きの観光車両だ。この車両には「観光客需要の再開拓」という使命が与えられた。
箱根方面行きロマンスカーは、1987年に550万人の利用者がいた。しかし2003年には300万人に減少したという。ロマンスカー全体の利用者数は1100万人から1400万人に増えたけれども、箱根方面の特急利用者が減っていた。その減少分を「EXE」が補っていた。つまり「EXE」の効果は300万人ではなく、箱根方面で減った250万人を補った550万人だったわけだ。この損失がなければ、2003年のロマンスカー利用者数は1650万人になるはずだった。
1987年のロマンスカーは、すべて展望席付きで12編成あった。しかし2003年では、展望席付きロマンスカーが8編成で、7編成が「EXE」だ。「EXE」は箱根方面にも投入されたけれども、実はこれが不人気だった。ビジネスライクな仕様と外観が嫌われた。ロマンスカーといえば展望席で、流線型のカッコ良さだった。観光客は展望席に座れなくても、展望席付きのロマンスカーを選んでいた。この傾向は親子連れに顕著だったという。鉄道車両の外観は「乗りたくなる仕掛け」でもあった。
2001年にJR東日本が湘南新宿ラインの運行を始めると、新宿〜小田原間に「JRのグリーン車」という選択肢が生まれた。いままで新宿でロマンスカーに乗り換えてくれた客を奪われる形になった。この対抗策として、小田急電鉄は2008年に地下鉄対応で編成分割も可能な青いロマンスカー60000形「MSE」を投入する。相互直通運転を実施している東京メトロ千代田線に乗り入れ、「メトロはこね」「メトロえのしま」を運行している。
一方で、ロマンスカーには新たな問題が発生した。製造から20年を経過した10000形「HiSE」を使い続けられなくなった。リニューアル工事を実施すれば、あと10年は使えるはずだった。しかし2000年にバリアフリー法が制定された。鉄道車両を新造、あるいは大規模な改造をする場合は座席を一定の比率で車椅子に対応させる必要がある。ハイデッカータイプの「HiSE」では対応が不可能だった。
ロマンスカーの人気を維持するためにも、展望席付き編成の数を維持する必要がある。しかし「HiSE」は使えない。そこで作られたロマンスカーが50000形だった。「白いロマンスカー」は、展望席車両の再来として話題になった。ところが、この「白いロマンスカー」も誕生から19年という短命で引退する。延命するため老朽化を補うリニューアル工事をしたいところだけれども、アルミ製車体は鋼製車体に比べて加工しにくい。連接車体という特殊構造のため故障時の機器交換に手間を要したからだ。
2028年に登場予定の新しいロマンスカーは、この「白いロマンスカー」の「後継」とされている。箱根行き観光需要の維持という点で、展望席は必須だろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
箱根に100億円投資、小田急が挑む「国際観光地競争」
小田急箱根HDは、総額100億円を超える大型投資を発表。目玉は新型観光船だ。2020年に向けて「世界の箱根」を盛り上げていく。一方で課題もあって……。
小田急ロマンスカー「GSE」が映す、観光の新時代
小田急電鉄は来春から導入する新型ロマンスカー70000形「GSE」を発表した。第1編成が3月から、第2編成は第1四半期早期の導入予定。製造はこの2本の予定だ。フラッグシップの特急を同じ車両で統一しない。小田急電鉄の考え方が興味深い。
小田急の特急ロマンスカーが残した足跡
小田急ロマンスカーの60周年を記念して、横浜駅から徒歩数分の原鉄道模型博物館で特別展「小田急ロマンスカー物語」が始まった。流線型に展望車、子どもたちの憧れだったロマンスカー。その功績は小田急電鉄の業績向上にとどまらず、世界の高速鉄道誕生のきっかけをもたらした。
年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
