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小田急「ロマンスカー新型車両」が登場へ これまでの“常識”を飛び越えられるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

小田急電鉄が9月9日、新型ロマンスカー設計への着手を発表した。しかし報道向け資料に示された情報は少なく、実物写真や完成予想図もないため、鉄道ファンが予想合戦を繰り広げる事態となっている。そこで今回は「新しいロマンスカーが小田急電鉄にとってどんな役割を担うか」を考えてみたい。

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観光以外の需要を開拓した「EXE」

 ロマンスカーの代名詞ともいえる展望席を、なぜ「EXE」は採用しなかったか。そこには、ロマンスカーの需要の変化があった。もともとロマンスカーは新宿〜小田原間のノンストップ列車だったけれども、1966年に需要掘り起こしのため、向ヶ丘遊園と新松田に停車する「さがみ」を設定した。どちらも遊園地や御殿場方面の観光を意識した列車だったけれども、通勤や通学などで利用する人がいた。

 そこで1967年から、従来は認められなかった「定期券利用者の乗車」を解禁した。さらに、小田原線内で町田のみに停車する「あしがら」が設定されると、ますます通勤、通学、買物客の利用が増えていく。混雑する通勤電車より着席して移動したいという需要を開拓した。

 1990年代に入り、30年以上も走り続けた3100形「NSE」を新車に置き換えるとき、小田急電鉄は「観光客以外のお客さまにも最適なサービスを提供しよう」と考えた。観光目的ではないから展望席はいらない。3100形以降のロマンスカーは速度を重視して、小型車両の間に台車を置く「連接車体」を採用していた。30000形EXEは大型車両の両端に台車を置き、その代わり定員を増やし、座席間隔も拡大した。

 展望席をなくす代わりに先頭車両に貫通扉を設置して、10両編成を6両編成と4両編成に分割できる仕組みを採用した。相模大野で分割、併合し、新宿〜小田原間、新宿〜片瀬江ノ島間、それぞれの需要に対応した。ロマンスカーに通勤需要があるとしても、従来の観光客需要ほどとは考えていなかったようだ。


10両編成を6両編成と4両編成に分割できた(筆者撮影)

 「EXE」は1998年までに4編成が製造されて、3100形と交代した。この当時、ロマンスカーは展望席付きの7000形「LSE」、10000形「HiSE」、2階建て20000形「RSE」を合わせて10編成の観光タイプがあり、「EXE」は少数派だった。しかし、追加で3編成が製造されて合計7編成になると、ロマンスカー車両の最大勢力になった。

 30000形「EXE」は、フル編成のときに他のロマンスカーに比べて輸送力が大きい。編成を分割すれば需要の変化にも対応できる。つまり「EXE」は便利なロマンスカーだ。鉄道ファンに嫌われても、乗客には好評だ。そもそも展望席の数は少ないし、中間車に乗るほとんどの客には関係ない。むしろ座席間隔が広い「EXE」のほうが好まれる。

 ロマンスカー利用者数は、鉄道趣味誌によると1987年に1100万人だったところ、2003年には1400万人になったという。つまり、300万人の新規需要を獲得したといえる。

 2018年から「EXE」の7編成のうち製造年の早い5編成がリニューアル工事、つまり延命処置を受けて「EXEα」になった。もともと歴代ロマンスカーたちは30年前後活躍していたから、20年目の延命工事は妥当だ。そのまま残り2編成もリニューアルするかと思ったら、これは2028年までに引退し、2028年に登場する新たなロマンスカーと「代替」する。

 この“代替”が、「特急編成総数の帳尻を合わせる」という意味であれば、その用途は30000形のような「通勤・通学・買物客用」とは限らない。


30000形のリニューアル車「EXEα」(筆者撮影)

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