「エンゲージメントを高めたい」企業が陥る落し穴 “社員の不満解消”だけでは不十分(2/2 ページ)
エンゲージメントを高め続け、成果創出につなげるためには、企業はどのように取り組むべきなのか。実は、企業が陥りがちな「落とし穴」がある。
「診断」と「改善」でエンゲージメントを高め続ける
エンゲージメント向上の鉄則は「診断」と「改善」を繰り返すことだ。それぞれのポイントについて解説する。
診断のポイント:満足度だけでなく「期待度」も測る
エンゲージメントサーベイは、従業員の満足度を測るものが一般的だ。この場合「満足度が低かった項目から改善を図っていこう」という方針になりがちだが、必ずしも満足度の低い項目が、優先的に改善すべき項目とは限らない。
例えば、サーベイで上司への満足度が低いことが分かったため、上司と部下の1on1ミーティングを導入したとする。しかし、他にも満足度が低い項目があった場合「今、改善してほしいのはそれじゃない」「上司とのミーティングを求めているわけじゃないのにな」と、逆に従業員の不満をエスカレートさせてしまうケースもある。
また、従業員の不満は尽きることがない。エンゲージメントサーベイを実施するたびに新たな不満が続々と出てくるだろう。一つ一つ不満の解消を図っていたら、会社が疲弊してしまうのは時間の問題だ。
診断のポイントは、サーベイで従業員の満足度だけでなく「期待度」も測ることだ。期待度を把握できれば、「不満を解消する」という方針ではなく、「期待に応える」方向で施策を講じることができる。
また、従業員が期待していることが分かれば動機付け要因を抽出しやすくなる。それゆえ、より効果的にエンゲージメント向上を図れるようになるはずだ。
改善のポイント:自社にとっての「最適解」を見極めること
業界や業態、事業内容などによって期待度や満足度の傾向は異なる。また、そのときの組織状態や企業の成長フェーズなどによって最適な施策は変わってくる。上述したマッサージチケットやピザパーティーの例のように、良かれと思って実施した施策が逆効果になってしまうこともある。
改善のポイントは、自社にとっての「最適解」を見極めることだ。エンゲージメントサーベイによって組織状態を正しく把握した上で、それに対して最適な施策を講じることがエンゲージメント向上の近道になるはずだ。
楽天のウェルビーイング経営事例
本連載で繰り返しお伝えしてきたが、ウェルビーイング経営において重要なのは、All(企業の成果創出)とOne(個人の欲求充足)を同時に実現することである。このようにAllとOneの両軸でウェルビーイング経営を実践しているのが、楽天グループだ。
同社は、2019年に「個人」「組織」「社会」3つの視点でウェルビーイング向上に取り組む、CWO(Chief Well-being Officer)というポストを設けた。また「コレクティブ・ウェルビーイング」という新しいコンセプトを提唱しており、「企業」と「働く個人」の両側面から、3つの要素「仲間」「時間」「空間」を設計し、それぞれに「余白」を設けることが大切だと唱えている。
このように、会社としてウェルビーイングの実践に向けた方針を打ち出し「個人のウェルビーイング」向上(for One)と「組織のウェルビーイング」向上(for All)に取り組んでいる。
「個人のウェルビーイング」向上の取り組みとしては、個人の健康課題に合った食事提供や、定期的な1on1ミーティングなどを実践している。特に、1on1ミーティングは95%の従業員が「満足」と回答しており、PDCAサイクルを回したり、キャリアプランを議論したりする場として、「個人のウェルビーイング」向上を支えている。
「組織のウェルビーイング」向上では、各種セミナー・イベントを通して企業理念や行動指針の浸透に努めている。例えば、週に1回、同社の会長兼社長の三木谷氏が、自身の経営哲学をまとめた書籍『BUSINESS-DO』について従業員と対話する機会を設けている。社長自らが全社員に向けて語りかけることで、同社の行動指針である「楽天主義」の浸透を図っている。また、同社の一事業部では従業員エンゲージメントのクラウドサーベイを導入。エンゲージメント向上につなげた結果、主体的に業務を進める社員が増加している。
おわりに
心理学から生まれた用語である「ウェルビーイング経営」は、従業員の幸福実現を目指すものであり、経営視点との統合が重要になる。大切なのは、いかにしてAll(企業の成果創出)とOne(個人の欲求充足)を同時に実現するかであり、その際に経営学の用語である「エンゲージメント」の活用が重要になる。
ぜひ、本連載でお伝えしたポイントを参考に、真のウェルビーイング経営を実践していただきたい。
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