やっぱり、セブン&アイの買収提案は悪い話なのか いやいやそうでもない、これだけの理由:合理的な判断(5/7 ページ)
小売り大手のセブン&アイが、カナダに本社を置くアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けました。ネガティブな報道が多い印象がありますが、本当に悪い話なのでしょうか。財務を分析すると……。
なぜ評価されないのか
次に、セブン&アイとACTの財務諸表を見てみましょう。
両者の時価総額と企業価値を比較してみると、ともにACTのほうが大きいことが分かります。ただ、減価償却に左右されずに会社がどれほど利益を上げているかを示すEBITDAを見ると、セブン&アイは1兆円と、ACTよりも稼いでいることが分かります。EBITDA利益率も高いことが分かります。
では、なぜセブン&アイは市場の評価がACTに比較して低いのかを考えてみると、資産回転率の低さが影響しています。ACTの2.1、セブン&アイの0.93という数字は、ACTは持っている資産を使ってその2倍以上の売り上げを作れるのに対し、セブン&アイは1倍に満たないということを示しています。
セブン&アイはEBITDA利益率が高いものの、そのために使っている資産が多すぎる状況で、売り上げを上げるための効率が悪いと見られてしまっている状態です。これにより、いくらEBITDAが高くても、セブン&アイの評価が低くなっているのです。
セブン&アイの手元には現金が1兆5000億円ほどあり、手元に多くのキャッシュを持ってしまっていることになります。上述のように資産回転率が悪いため、ACTに比べるとビジネスで必要な額以上の資本をもっており、「非効率」と評価される状態でもあります。
EBITDAで比べた場合、収益力においてセブン&アイはACTより優れており、ACTに引けをとりません。一方、持っている資産を使って売り上げを作る力でいうと、ACTにかなり見劣りしています。
また、買収の場合はプレミアム(上乗せ)が付きますが、セブン&アイという会社自体に1兆円以上の現金があり、一部は現金を現金で買っているのと同じです。セブン&アイが多額の現金を持っていることにより、その事業自体はもっと安く買えることになってしまうため、買収する側には想像以上に割安に見え、「買収したらおいしい」と考えられた可能性があります。
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