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美容室の倒産が増えているのに、なぜ「特化型店」は好調なのか(3/5 ページ)

帝国データバンクの発表によれば、2024年に発生した美容室の倒産は8月までに139件に達した。年間最多だった2019年(166件)を大きく上回る勢いで推移している。そうした中、特化型の店舗が増えていて……。

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幅広い世代の髪質を改善する酸性ストレート

 2020年12月に創業し、sins式髪質改善酸性ストレート(縮毛矯正)を掲げる銀座の「sins」も、特化型で成功している美容室の一つだ。同メニューはsinsが開発したオリジナルの薬剤を使用した酸性ストレートで、2万6000〜3万8000円(スタイリストによって変動)と高価格帯となる。厚生労働省が発表している平均的な縮毛矯正の価格(関東・甲信越で1万1675.5円、2018年)よりも大幅に高い。


髪質の改善具合は一目瞭然。他店の縮毛矯正で失敗した人が来店することもある(sins提供、以下同)

 縮毛矯正は頻繁に行う施術ではなく、半年〜1年に1回のペースが通常だ。にもかかわらず、約85%がリピーターであり、予約が取りづらい状況になっている。sinsを運営するsinsコスメティクス社(東京都中央区)の創業者であり、代表取締役の日野達也氏の予約は数カ月先まで埋まる人気ぶりだ。


「ボブの専門医」から「髪質改善酸性ストレート」に路線変更して、事業を拡大している日野達也氏

 日野氏は、元々「ボブ専門」の美容師として女性客から人気を集めていたが、コロナ禍で「縮毛矯正」に路線変更した経緯がある。

 「どんな時代でも生き抜ける術を身につける必要性を痛感し、人口が多く美容室の利用率が最も高くなる50代女性をターゲットにしたいと考え、縮毛矯正のニーズに行き着きました。一般的な縮毛矯正はアルカリ性の薬剤を使用するのですが、傷んだ髪などは施術が難しく、より幅広い方に対応できる『酸性の縮毛矯正』に狙いを定めました」(日野氏)

 スタイリストの個性をウリにするカットよりも、「sinsの縮毛矯正」をブランド化することで、「人」に依存しないビジネスモデルを構築したいと考えたという。一方、既存の酸性ストレートの薬剤は扱いが難しく、高度なスキルが求められる。そこで、扱いが容易な薬剤を開発することにした。


約8000万円のコストをかけてオリジナルの薬剤を開発。全国の美容室に販売している

 約8年前から縮毛矯正を研究してきた知見を生かし、創業後は店舗運営と並行して薬剤の開発に注力。2021年6月に完成させた。sins式髪質改善酸性ストレートと名付け、自社で使用するだけでなく、全国1100店舗の美容室に薬剤を販売している(2024年9月現在)。


2024年1月に店舗を拡張移転した

 薬剤の完成により酸性ストレートの提供がしやすくなり、スタイリストの教育コストもかかりづらくなった。2024年1月には店舗を拡張移転し、現在は日野氏を含む9人のスタイリストで運営している。

 「薬剤の開発には、総額で約8000万円の費用がかかりました。創業3期目(直近)の売上高は2億6000万円で、前期から約2.2倍の成長率です。新規のお客さまには酸性ストレートしか提供していませんが、競合が少なく売り上げを伸ばしやすいビジネスモデルです。縮毛矯正という高価なメニューゆえに、失敗したくない心理が働き、平均より高価であることが集客につながる側面があります」

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