社員研修に「禅」を導入、その効果は? 多くの経営者層が注目するワケ:令和の無駄学(2/2 ページ)
従業員育成の一環として「禅」を取り入れる会社がじわじわと増えているそうです。一見ビジネススキルとは離れているように思えますが、企業が禅に注目する理由や禅を学ぶことで見込める効果とは、どのようなものなのでしょうか?
禅とは自分と向き合うこと
――Z世代の間でも「没入」する時間を求める潮流を感じます。無になる感覚を求めてサウナに行ったり、ジャーナリング(ノートに書き出すこと)をする若者も増えています。私自身も、頭の中がいっぱいになると編み物や刺繍などの単純作業に没することでリセットさせることが多々あります。ここまでの話を聞いて没入感を求めて若者がやっていることと禅とは、多くの共通点があるような気がしてきました。
島津: 確かに、坐禅とサウナは似ていますね。サウナの中では暑くて仕事のことなんて考えていられない、つまり頭を強制的に空っぽにできる手段だと言えます。また、坐禅はその時々の自分の状況を見て何分何セットで行うのかを決めるのですが、これも非常にサウナと似ていますよね。どちらも日常の中で立ち止まって、自分を見つめるスイッチになっていると思います。
ジャーナリングというのも、実はやっていることは写経と同じです。ただ決定的に違うのは、根本的な作用か一時的な作用か、という点です。
サウナは一時的にはスッキリするけれど、効果は継続しない。疲れという表面的な症状を緩和させることを期待していますよね。対して禅には、教えという土台があり、それに基づいて坐禅や写経や読経など異なるやり方を組み合わせているため、身体の状態を根本から整えることを目的としているのです。
――なるほど。「疲れたら解消」がサウナやジャーナリングで、「なぜ疲れるのか」に向き合うのが禅。似ているようで大きな違いがありました。つまり禅の目的とは、自分と向き合い自分を強くすることであり、坐禅はその手段の一つということなのでしょうか?
島津: そうですね。禅とは、簡潔に言うと自分と向き合うこと。答えは自分の中にあるというのが禅の教えなんですね。禅の言葉でいうと「自灯明」、すなわち「自らを明かりとし自らを拠り所とせよ」ということです。
習慣として坐禅を継続していると、次第に五感が研ぎ澄まされていくので、より自分の感覚を信じることができ、自らを拠り所とできるようになるわけです。そして、自らを拠り所とできると、余計な情報に惑わされることなく、日常の余白だったり一見無駄な時間を使いこなせるようになる好循環が生まれます。
――禅=格式高いもの、信仰心を伴い、その道を極めないといけないものという認識を持っていました。私のような無宗教の若者でも始められるものなのでしょうか?
島津: もちろんです。禅は宗教にかかわらず全人類が土台として持っておくべき考え方だと思っています。能楽の世阿弥や茶道の千利休、剣豪の宮本武蔵も、実は禅を会得した人物だったのですよ。真ん中に禅があると全てがつながっていくので、何を生業としている人であれ、一度触れてみてほしいと願っています。
ビジネスと禅、若者と禅――。
どちらも一見距離があるように思える組み合わせですが、実は迷える現代のビジネスパーソンこそ実践するべきものだということが分かりました。経営者層がその効果に注目し、企業研修のプログラムでも取り入れられる理由が理解できました。
一見無駄なようでいて、日常の余白を使いこなすために用いられている「禅」。日々目まぐるしく変化し、情報であふれる現代社会において、今後ますます需要が高まっていきそうです。
著者紹介:中林磨美
株式会社 博報堂 クリエイティブ局
マーケティングプラナー/ヒット習慣メーカーズ
インタビュイー:島津清彦
株式会社シマーズ 代表取締役社長
シマーズネクスト株式会社 代表取締役社長
株式会社ZENTech 取締役ファウンダー
禅メソッドアカデミー 主宰
経営者かつ禅僧という「半僧半俗」の姿勢を貫き、公官庁、大手企業などを対象に禅を生かしたエグゼクティブコーチング・組織開発コンサルティングや経営者・役員層に向けた講演、研修、座禅瞑想指導などを行う。
著書に『心が回復する禅問答』(プレジデント社)など。
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