集英社、講談社、小学館など、マンガ出版社の多くが非上場なワケ:『漫画ビジネス』(4/4 ページ)
日本にはたくさんのマンガ作品がありますが、ヒットを生み出すには上場企業または非上場企業、どちらがいいのでしょうか。
上場企業の戦い方
非上場企業が大ヒット作品をつくると書きましたが、では上場企業や新興IT企業がヒット作品をつくれないかというと、全くそうしたことはありません。今そうした強いかたちがひとつあるというのみです。
そして、おそらくイメージされた方が多いと思うのですが、上場している大手出版社と言えば、KADOKAWAがあります。
KADOKAWAは、2024年3月期〜2028年3月期で中期計画書を出しています。その中で「IP創出目標」を24/3期で約6000点であるところを、28/3期で7000点超目指していくということを書いています(参照リンク)。
マンガはもちろん、ラノベなどの書籍、アニメ、ゲームなどさまざまなIPをつくり、売っていく複数の事業をもつKADOKAWAは「IP価値の最大化」ということを常々うたっています。これは同社の特質から分かりやすい考え方で、他の出版社にはとれない大きな戦略です。
同時に「出版事業によるIP創出」と題したチャートの中で、IP創出目標数を6000から7000へと置いています。これはラノベ・マンガ・絵本など、アニメやゲームに展開できる原資となるIPを、できる限り多くつくることで、KADOKAWA単体でも実現できるメディアミックスによるIP価値の最大化につなげるということだと思います。聞けば、これは創業一族のひとりでもある、角川歴彦前会長が号令した考え方のひとつだとかで、現・夏野剛社長の体制でも徹底されているようです。
言い換えると、本連載の冒頭で紹介した「裾野広ければ頂高し」を、1グループで実現するという、上場企業ならではのスケールの大きな戦略です。これは、国内最大級のメディアミックス企業、KADOKAWAにしか取れない戦略で、上場企業として規模の拡大を狙いやすい企業体として正しい選択だと思えます。KADOKAWAの近年の決算は、ゲームなども含めて好調を維持していますが、そこにつながっていると言えるのではないでしょうか。
小学館、集英社、講談社といった非上場の大手3社とKADOKAWAで取っている戦略には大きな違いがあるのですが、これは優劣ではありません。マンガ業界、エンタメ業界がある程度の規模感になってきた現在、それぞれが違う戦略を取ることによって全体として強靭な裾野をつくっています。例えば、そこで働く人や、それぞれの出版社と付き合う漫画家など、自分に合ったところとともに戦えるように選ぶことができる、選択肢に多様性が生まれていると言えます。
著者プロフィール:菊池健(きくち・たけし)
一般社団法人MANGA総合研究所所長/マスケット合同会社代表
1973年東京生まれ。日本大学理工学部機械工学科卒。商社、コンサルティング会社、板前、ITベンチャー等を経て、2010年からNPO法人が運営する「トキワ荘プロジェクト」ディレクター。東京と京都で400人以上の新人漫画家にシェアハウス提供、100人以上の商業誌デビューをサポートし、事業10周年時に勇退した。同時に、京都国際マンガ・アニメフェア初年度事務局、京まふ出張編集部やWebサイト「マンナビ」など立ち上げた。その後、マンガ新聞編集長、とらのあな経営企画、SmartNewsマンガチャンネル、コミチ営業企画、数年に渡り『このマンガがすごい!』(宝島社)の選者を務める。クリエイター支援やデジタルコミックの事業での事業立ち上げ、営業、企画、イベント、編集、ライティング等を得意とする。noteにて毎週日曜日に「マンガ業界Newsまとめ」を発信。共著『電子書籍ビジネス調査報告書2023』(インプレス総合研究所)のウェブトーンパートを担当した。2024年3月に、一般社団法人MANGA総合研究所を設立。
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