「弱者の戦略」がDX成功の鍵に 生成AIに「できない理由」を投げてみると……?(1/3 ページ)
今回は自治体がデジタル変革を進めるための「資源の制約」「弱者の戦略」という考え方について見ていきたい。
こんにちは。自治体のデジタル化をサポートしている川口弘行です。
生成AIを取り巻く環境、特にAIモデル(LLM)を提供する側の状況は刻々と変化しています。ざっくり捉えると「ChatGPT」 (OpenAI、Microsoft)、「Gemini」 (Google)、「Claude」(Anthropic)――という3者が切磋琢磨する業界構造となっています。
先日、OpenAIが高度な推論を可能としたモデル「o1」を発表しましたが、Googleは自社サービスである「Google Workspace」と「Gemini」をシームレスに連携できるようにしました。
生成AIは、その性能だけでなく、いかに利用しやすくするか、という方向でも進化しています。もちろん、他の事業者や研究機関なども特徴のあるモデルを開発、発表しています。
その中で筆者が関心を持っている領域は、ローカルLLMです。現在の生成AIはインターネット上のサービスであるため、ネットワークがつながっていない状態では使うことができません。そのため、自律して動作するロボットやセキュリティ上の理由によりネットワークに接続できないシステムで生成AIを使うためには、内部にAIモデルを組み込まなければなりません。
性能や応答速度を維持したまま、小型のコンピュータで動作できるAIが普及すれば、さまざまな分野での活用が期待できます。
前回は、生成AIを活用して、自治体のDX推進計画におけるアクションプランの見直し、特にKPI、KGIの考え方の違いについて解説しました。
(関連記事:自治体の「DX推進計画」が失敗するのはなぜ? 評価指標を生成AIで正しく設定する方法)
KGIは自分たちでコントロールできない指標、KPIは自分たちでコントロールできる指標でしたね。そして、それらを導出するためのプロンプトも紹介しました。
今回は自治体がデジタル変革を進めるための「資源の制約」「弱者の戦略」について考えていきましょう。
著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)
川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。
2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。
2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。
現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。
公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com
有限な資源、DXにどう配分するか
前回もお見せしましたが、この図は、自治体における活動が社会にどのようなインパクトを与えていくかについて示したものです。
自治体における活動は「インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム→インパクト」の順番に価値が連鎖しています。そして、アウトプットとアウトカムとの間に境界線があり、組織内(自分たちでコントロール可能な世界)とステークホルダー(組織の外でコントロールできない世界)に分かれています。
そもそもKPIは自分たちでコントロールできる指標であると同時に、「必ず達成すべき指標」でもあります。例えば、あるKGI達成のために、市民の方の啓発を目的としたチラシを1000枚配布するというKPIを設定したのならば、絶対に1000枚配布しなければなりません。もし、500枚しか配布できないのならば、最初からKPIは500枚とするべきなのです。
これには理由があります。
多くの自治体では、それぞれの部署には通常業務を過不足なく遂行するために必要な資源(職員数、予算など)しか与えられていないのが実状です。つまり、デジタル変革を「新しい仕事」や「未来への投資」と考えているのならば、そもそも自治体にはそんな資源はありません。
そして、その中で少しでもデジタル変革を進めるのならば、現状の業務をやりくりしながら資源を捻出するしかないのです。
自治体の組織は課単位でそれぞれ異なる事業を行っています。課に与えられた資源をどのように配分して業務を遂行するのかを決めるのは、所属長である課長の役目です。
保守的な課長は、現在の業務を確実に遂行することを重視した資源配分を行いますし、革新的な考えの課長ならば、新しい仕事への資源配分を惜しみません。ただ、資源は有限なので、既存の業務の品質低下や欠落が生じる可能性もあります。これには正解はありませんが、マネジメントとはそういう仕事です(もちろん、新たに予算や人員を獲得する道もありますし、その場合の課題も別にあるのですが、それはまたの機会に紹介します)。
さて、資源が有限であり、通常業務を無視できない以上、デジタル変革に向けて配分された資源も大きなものにはなりません。
KGIの達成に向けて、どうしても大きめのKPIを掲げがちですが、それは課長のマネジメント能力が欠如していることの表れでもあります。KPIの達成を前提条件にしておかないと、取り組み方の見直しが必要なのか、配分する資源の量の問題なのかの評価が難しくなります。それは次の改善のチャンスを失わせることにもつながります。
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