AIには答えられない「問い」がある――社会人が磨くべき「3つの能力」とは?:問いの設定力(4/4 ページ)
本記事では、グロービスで動画学習サービス『GLOBIS 学び放題』の事業リーダーを務める鳥潟幸志氏が著書『AIが答えを出せない問いの設定力』をもとに、「AIが答えを出せる問いと、出せない問いの違い」や「これから人に求められる3つの能力」について解説する。
人間が磨くべき「3つの能力」とは?
AFTER AI時代で求められているスキルは「自ら生み出す力」と話しましたが、私は具体的に「問いの設定力」「決める力」「リーダーシップ」の3つの力であると定義しています。それぞれの力について説明していきます。
【1】「問いの設定力」
正解を発見するのではなく、そもそも何を解決するべきなのか、何を理想とするべきなのかといった、問いを自ら設定する能力です。適切なタイミングで、適切な順番で、適切な問いを設定し、思考を促し行動できる人材が、これからの社会では求められると考えられます。
【2】「決める力」
上司からの指示を仰ぐのではなく、前線にいる人が観察をして、意思決定し、自分の責任の下で行動する能力です。生成AIを活用することで複数の選択肢やもっともらしい回答を瞬時に得ることが可能になりますが、その内容を取捨選択し判断するのは、あくまで私たち人間なのです。
【3】「リーダーシップ」
リーダーを支援するフォロワーシップではなく、現場に近いスタッフが状況判断し、方針を示し、周囲を動かす能力です。AFTER AIの時代には、管理職の立場にない人も含めて、全てのビジネスパーソンにリーダーシップが求められるようになると私は考えています。
そして、これら3つの能力に大きな影響を与えるのが「自分らしさに沿って生きる力」です。これまでの社会では組織のルールに従いプロセスに従順で、期待された課題解決をし続けること、つまり、集団の“らしさ”に沿って生きることが評価されてきました。
しかし、組織の論理を重視するあまり、道徳的・倫理的に誤った取り組みすら制御ができなくなる事態に発展するリスクがあります。企業の不正が明るみに出るたびに「社内で異論を唱える雰囲気ではなかった」という社員の声を耳にすることがあるのではないでしょうか。
また、一人一人の人生においても、自分以外の人の“ものさし”を持ち続けた先に幸せはあるのでしょうか? 人生の充実感は得られるのでしょうか?
私は今一度、集団の“らしさ”に沿って行動することの是非を問う必要に迫られていると感じています。
良い問いとは自分の意思や哲学が反映されているものであり、良い決断とは、リスクをとって最後は自分の信念に沿って決めるものです。そして、良いリーダーシップとは、自分の立場を明確にして発信し、周囲を動かすようなものです。その時々で、また、人生において、納得感のある回答を引き出せるのは自分自身。自分で決めたからこそ、納得もできるし、その責任を負うこともできるのです。
“自分らしさ”を明らかにし、言動に反映していくのは、簡単なことではありません。しかし、これはAFTER AI時代に求められる「3つの能力」、つまり「問いの設定力」「決める力」「リーダーシップ」いずれにも影響する、重要なものです。
次回以降で、3つの能力それぞれの高め方、「自分らしさ」についての考え方など、詳しくお伝えします。
GLOBIS 学び放題 事業リーダー/グロービス経営大学院教員 鳥潟幸志(とりがた・こうじ)
埼玉大学教育学部卒業。株式会社サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタント経験を経て、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして新規事業開発、海外支社マネジメントなど経営全般に携わる。グロービス参画後は、社内のEdtech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修においてプログラムの講師なども担当。著書に『AIが答えを出せない問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
上司と部下の会話、なぜかみ合わない? “残念パターン”から探るコミュニケーションの深め方
グロービスで、動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める鳥潟幸志氏の著書『AIが答えを出せない 問いの設定力』をもとに、上司・部下の間でよくある「残念な会話」を例として取り上げ、問いの設定力に対する具体的な考え方、能力の高め方について解説する。
「決めるのが怖い」と悩む管理職へ 今すぐ「決断力」を高めるために押さえるべき3つの視点
本当にこの決断で大丈夫だろうか……。予測が困難なビジネス社会において、「決めること」に恐怖心を抱いている管理職の方も多いのではないでしょうか?本記事では決断力を磨く3つの視点、意思決定における重要な考え方ついて詳しく解説します。
平成→令和で「管理職」に求められるスキルはどう変化した? 役割はさらに複雑化……
ここ20年間、平成と令和の間でも実際の働き方や働き手の意識が大きく変わってきました。それに伴い、管理職に求められるスキルも大きく変化しています。今回はそのような「管理職」に求められるスキルの過去と現在について見ていきたいと思います。
女性が管理職を望まない理由 「責任が重い仕事はイヤ」を抑えた1位は?
ライボ(東京都渋谷区)の調査機関「Job総研」が「2023年 女性管理職の実態調査」を実施した。
「管理職になりたくない」女性が多いのはなぜ? リアルな苦しみを専門家が解説
女性の管理職への登用が注目されている。しかし、管理職を希望する女性は少ないのが現状。その理由を専門家が分析する。
「管理職になりたくない」 優秀な社員が昇進を拒むワケ
昨今は「出世しなくてもよい」と考えるビジネスパーソンが増えている。若年層に管理職を打診しても断られるケースが見受けられ、企業によっては後任者を据えるのに苦労することも。なぜ、優秀な社員は昇進を拒むのか……。
「管理職辞退」は悪いこと? 断る際に重要な2つのポイント
昨今「管理職になりたくない」「管理職にならない方がお得だ」――という意見が多く挙がっている。管理職にならず、現状のポジションを維持したいと考えているビジネスパーソンが増えているが、管理職登用を「辞退」するのは悪いことなのだろうか……?
