「おもちゃメーカー」が台湾有事のカギを握る? 日本企業に必要な危機感:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
世界の紛争において、ドローンが重要な役割を担うようになった。警戒されている台湾有事を見据え、台湾ではおもちゃメーカーが全て台湾製の軍事ドローンを製造。ドローンによる応酬も始まっており、日本の防衛産業も国産製品を支援するなどの対応が必要だろう。
ドローンによる「紛争」は始まっている
米テック誌「MITテクノロジーレビュー」は、このように指摘している。「シンクタンクの新米国安全保障センター(CNAS)による新たな戦争シミュレーション実験によると、台湾と中国の間で将来起こり得る紛争は、先進的な水中ドローンや、高度な自律テクノロジーを駆使したドローン戦が中心になる可能性がある」と。
最近の動きを見ていると、中国はすでにそのドローンによる「紛争」を開始していると言っていいだろう。
中国の人民解放軍は、50種類以上の多彩なドローンを所有しており、有事の際には確実に戦力として動員する。ちなみに米国は1万機以上の大小のドローンを導入し、「世界最大かつ最も洗練されたドローン軍」を所有しているとされる。日本も、2025年度予算で攻撃型ドローンの購入費などで1000億円以上を概算要求している。
世界の民間ドローンのシェアを見ると、DJIなどの中国メーカーが支配しているのが分かる。一方で、日本や欧米などの国々では、こうした中国製のドローンのみならず、レッド部品を含む機器を使うことへの懸念がどんどん高まっている。国防費が急増している日本でも、防衛産業などでレッド部品を使わないようにしていかないと、防衛体制が不十分になる可能性があるが、実際はその意識がまだ不足している。ビジネスとしてみれば、ドローンも部品も、安く調達するのが正しい判断だからだ。
だがその意識は、防衛や安全保障では通らないこともある。日本は台湾を見習って、国の支援などによって、防衛産業に少しでも関わる民間企業に自覚を持ってもらうように働きかける必要があるだろう。さもないと、次世代の日本を守れなくなる可能性がある。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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