鉄道事業の分社化は小林一三イズムの終焉か 南海電鉄の新たな一手:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
南海電鉄が10月30日、鉄道事業の分社化を発表した。2026年4月に100%子会社の鉄道事業会社が発足する。東急電鉄も2019年に鉄道事業を分社化しているが、それ以前に西武鉄道、阪急電鉄、阪神電鉄も鉄道事業を子会社化している。鉄道会社が鉄道事業を分社化する理由を考えてみたい。
鉄道は発展ではなく、安定維持の時代になった
鉄道事業を分社化する理由は、主に「お財布を分ける」だ。「鉄道事業」と「その他の事業」を別にしたい。なぜなら一緒にした場合、資金を調達する時に用途が不明確になりやすいからだ。新事業を発足させる名目で資金を調達しようとしても、他の事業が不振であれば「補てんに使われるのではないか」と疑われる。では素直に赤字補てんのため借金したいとなれば、「他の黒字部門から融通してもらいなさい」となる。
東急や南海よりも前に鉄道事業を子会社化した事例がある。長野県の上田交通は、2005年に鉄道事業を分社化して「上田電鉄株式会社」とした。島根県の一畑電気鉄道は、2006年に鉄道事業を分社化して「一畑電車株式会社」を設立した。電鉄だったり電車だったりと、こちらもややこしい。
上田電鉄も一畑電車も、鉄道路線は赤字だ。その鉄道路線を維持するために、自治体の支援を受けたい。自治体としては鉄道に対する支援だと明確にしたい。だから分社化して経営を分離した。一畑電気鉄道はすでにバスとタクシーを分社化しており、鉄道の分社化によって持株会社となった。
子会社となった鉄道会社といえば、西武鉄道、阪急電鉄、阪神電鉄がある。西武鉄道はもともと不動産事業のコクドを頂点とした西武グループの会社のひとつだった。しかし、コクド配下の不祥事を受けて経営再建するため、2006年に持株会社の「西武ホールディングス」を設立し、西武鉄道を含む西武グループ全社が子会社になった。
阪急電鉄は1995年の阪神・淡路大震災を契機に、阪急グループ全体の経営再建のために「阪急ホールディングス」という持株会社を設立し、阪急電鉄ほかグループ会社を子会社化した。さらにファンドによる阪神電鉄株の大量保有をきっかけとして、2006年に阪神電鉄を子会社化。これにより阪急ホールディングスは「阪急阪神ホールディングス」となった。
阪急電鉄と阪神電鉄は、阪神間を結ぶ鉄道として競争関係にあった。2社を経営統合せず持株会社の子会社にしたことで、互いの独立と競争関係を維持している。もっとも鉄道会社の使命はグループ企業とともに沿線の発展に寄与することであり、運賃や速度で客を奪い合う時代は終wa
りつつあった。
このように地方の鉄道も大手私鉄も、もとは経営グループのリーダー格だった鉄道事業を子会社化している。そこには共通点がある。鉄道の役割が「発展」から「安定」に変わったことだ。鉄道を持続的に維持するためには、子会社となって鉄道事業に専念してもらったほうがいい。
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