自治体を苦しめてきた「オープンデータ公開」 負担軽減へ生成AIが秘める可能性とは?(2/4 ページ)
今回は「自治体のオープンデータへの取り組みと生成AIの関係」について考える。長年、自治体職員の負担となってきたオープンデータの運用。生成AIの登場が現状を打開するきっかけとなる可能性があるという。
産学官民でかみ合わないオープンデータ活用
2016年12月に施行された「官民データ活用推進基本法」では、国や自治体、民間企業が保有する「官民データ」を適正かつ効果的に活用することで、行政運営の効率化、地域経済の活性化などを目指すことを基本理念として掲げています。実はそれ以前から、行政機関の保有データを公開し利活用を促す取り組みは進められていましたが、これに法的根拠が示されたことで、自治体のオープンデータの取り組みは大きく前進するはず、でした。
ところが、そんなに話は簡単ではありません。オープンデータを取り巻く環境には、産、学、官、民のプレーヤーがいますが、それぞれの主張がかみ合わないのです。
産業分野から官(自治体)に向けての主張は「自治体は自分たちでは得ることのできない質の高いデータを持っているのだろうから、自分たちの儲けにつながるようにどんどん公開しろ(さらにいえば、競争優位になるデータならば、自分たちだけに見せろ)」というものです。
学術分野からは「研究に役立つデータを分析しやすいように自分たちの望む形式で提供しろ」という主張だけでなく、「オープンデータは社会的な意義があり、それに対応しないのは怠慢だ」と自治体を責める主張をする方もいました。
逆に、自治体から産、学のプレーヤーに対しては「提供するデータの正確さや他人の権利を侵害しないようにする配慮が必要で、そのコストを受け入れるのは難しい。そもそも効果が不明なものに公金を使えない」と慎重です。
住民目線ではどうでしょうか。「データの公開をやらないよりは、やったほうが嬉しい。でも、オープンデータは行政サービスの一つに過ぎないので、それよりも子育てとか福祉政策とか具体的な結果が欲しい」と消極的な意見を聞きます。
自治体から住民に対しては「資源の制約がある中で国からの委任事務や法定受託事務を処理するだけで手いっぱい。それでも住民からの要求があれば動きたいが、オープンデータ化という漠然とした要求には応えづらい」というのが本音です。
さらに困ったことに、官民データ活用推進基本法において、都道府県では「官民データ活用推進計画」の策定が義務付けられ、区市町村に対しては計画策定を努力義務としています。実際には努力義務といいながらも、自治体が国の補助事業に応募する際には、この計画策定が行われていることを条件にしていたり、オープンデータの公開件数を競わせたりしているので、事実上の強制であるともいえます。
近年は自治体DX推進計画の方が目立っているので、あまり注目されていませんが、この法律は今も生きていますし、自治体が策定するDX推進計画を「官民データ活用推進計画」として位置づけているところも多いです。自治体はどんどん苦しい立場に追い込まれているともいえるでしょう。
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