自治体を苦しめてきた「オープンデータ公開」 負担軽減へ生成AIが秘める可能性とは?(1/4 ページ)
今回は「自治体のオープンデータへの取り組みと生成AIの関係」について考える。長年、自治体職員の負担となってきたオープンデータの運用。生成AIの登場が現状を打開するきっかけとなる可能性があるという。
こんにちは。全国の自治体でデジタル化をサポートしている川口弘行です。
生成AIは大手3社(OpenAI、Google、Anthropic)の他にも、魅力的なAIサービスを提供している事業者が数多くあります。AIモデル(LLM)の開発でこの大手3社に挑むというよりも、特定の目的や領域に特化した便利なサービスを目指す傾向が強く、私もいろいろと使い分けています。
その中で、ちょっとした概念図などを作ることに特化した「Napkin AI」というサービスを紹介しましょう。現在はベータ版で、無料で使うことができます。
このサービスは文章を読み込ませることにより、その文章にふさわしい概念図を生成してくれるもので、文章の説明を補足し理解を促すツールとして活用することができます。生成した図は後から修正もできます。
今回の記事の後半にNapkin AIで生成した図を使いました。記事のどの部分から生成したのか想像してみてください。
前回は自治体がデジタル変革を進めるための「資源の制約」「弱者の戦略」について解説しました。私自身、自治体を取り巻く環境について、そのわずかな面しか見れていない可能性もあります。ただ、昔のような「お役所仕事」と批判されるようなことは、随分と減ってきているように思います。
将来の人口減少は避けられない事実ですし、自治体の財政規模や職員定数も縮小傾向にあるので、それら資源の制約の中で知恵と工夫が試される時期が続くことでしょう。
(関連記事:「弱者の戦略」がDX成功の鍵に 生成AIに「できない理由」を投げてみると……?)
さて、今回は少し視点を変えて「自治体のオープンデータへの取り組みと生成AIの関係」について考えていきましょう。
これまで、データ活用の推進を目的に、自治体は保有するオープンデータを積極的に公開するよう国から求められてきました。一方で、それは職員の負担となり、行政事務を阻害する一因にもなっています。
しかし、昨今の生成AIの登場が、こうした現状を打開するきっかけとなりそうです。詳しく見ていきましょう。
著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)
川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。
2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。
2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。
現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。
公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com
ChatGPT searchを試してみよう
皆さんは「オープンデータ」という言葉をご存じですか?
このような未知の用語に遭遇した時には、これまではGoogleなどの検索エンジンを使うことが多かったと思います。ところが、OpenAI社は2024年10月末に「ChatGPT search」というサービスを開始しました。これはChatGPTにAIを使ったWeb検索機能が統合されたものです。
これまでのChatGPT(その他の生成AIも同様)は、過去の膨大な学習データの単語の組み合わせにより、もっともらしい回答を生成するサービスでした。したがって、その回答はあくまでもAIが表明した「意見」に過ぎない、という説明をしていました。
ChatGPT searchでは、Web検索結果をもとに回答を生成するため、限りなく事実に近い(ウソをつかない)回答を得ることができます。せっかくなので、ChatGPT searchで「オープンデータ」について質問してみましょう。ChatGPTの画面から、検索機能を有効にするボタンをクリックして、次のプロンプトを投げかけてみます。
【プロンプト】
オープンデータとは何ですか? オープンデータによって得られる価値にはどのようなものが考えられますか? オープンデータによって誰がメリットを享受するのでしょうか?
Google検索では、キーワードを入力して、そのキーワードに基づいたWebページの一覧が表示される仕組みですが、ChatGPT searchでは回答を「生成」してくれます。そして、情報源としたWebページを併せて表示してくれます。総務省のWebページにオープンデータの定義があるようですね。
ただし、このクオリティーであっても、ChatGPTからの回答は「意見」であることに注意してください。情報源とされていない部分の記述はこれまでどおり「生成」しているためです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ChatGPTに重要な情報を送っても安全か? 自治体のネットワーク分離モデルから考える
自治体における生成AIの利活用、今回は「送信された情報の管理の問題」、つまり「ChatGPTに重要な情報を送信しても安全なのか?」という点について考えたい。
自治体の「DX推進計画」が失敗するのはなぜ? 評価指標を生成AIで正しく設定する方法
「弱者の戦略」がDX成功の鍵に 生成AIに「できない理由」を投げてみると……?
今回は自治体がデジタル変革を進めるための「資源の制約」「弱者の戦略」という考え方について見ていきたい。
プロンプトの悩み不要 自治体で使うべき「ChatGPT Plus」の機能とは?
生成AIを業務に導入する自治体が増える一方で、依然として活用に二の足を踏む自治体も。何がハードルになっているのか。
5分の作業が船移動で半日仕事に……沖縄・竹富町が挑むDX 離島の不利性どう解消?
沖縄県竹富町は、島しょ自治体が抱える不便をテクノロジーで解消しようと、DXに注力している。これまでは、5分で終わる町職員の業務が、離島へのフェリー移動を伴う出張となれば半日かかることもあった。


