「青春18きっぷ」大ブーイング やっぱり、新ルールは改悪か 利用者の本音とJRの狙い:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
JRグループが11月26日に「青春18きっぷ」の冬版を発売する。今回からルールが大きく変わり、従来からのユーザーに概ね不評だ。しかし商品を改定する理由は「そのほうが売れるから」「そのほうが利益につながるから」である。利用者目線で改悪であっても、サービスの提供側に利点があるはずだ。
「ハッピーセット戦略」の失敗と代替「きっぷ」包囲網
青春18きっぷはその名の通り「若い人に鉄道旅を楽しんでもらいたい」が主旨だった。マクドナルドのハッピーセットと同じで、子どもの頃に味を覚えてもらえば、ソウルフードとなって、大人になっても来店してくれる。ただしその時はハッピーセットではなく、ビッグマックやダブルチーズバーガーになり単価が上がる。食べる量も増える。
ところが往年の青春18きっぷユーザーときたら、大人になっても青春18きっぷから離れてくれない。新幹線にも乗ってくれず、LCCで北海道や九州へ飛び、1日か2日分の青春18きっぷを使う。元が取れたら、それ以降は日常の雑用で消費するか、困ったことに金券ショップに売ってしまう。
かといって、青春18きっぷをいまさら「U18限定」にすれば大混乱だ。そこで、本来のターゲット層に絞った使い道「3日連続」「5日連続」に変更したのではないか。
青春18きっぷから締め出された大人たちはどうしたらいいか。実はJRは、大人たちに快適でお得な切符を用意している。「Peach/FDA ひがし北海道フリーパス(2万円)」「四国フリーきっぷ(1万8000円)」「旅名人の九州満喫きっぷ(1万1000円)」など、調べればいくつも出てくる。これらの切符は飛行機で現地に行ってから使う。特急に乗れて、指定席も使えるタイプもあるし、JR周辺の私鉄も組み合わせたタイプもある。
JR各社が自社線内で完結するフリー切符を出している。だからもう青春18きっぷは必要ない、という見立てもできる。しかし青春18きっぷは残った。実情として、シニアが使う青春18きっぷはビジネスのバランスを崩している。いつまでも青春18きっぷに固執しないで、可処分所得と可処分時間に見合った切符に誘導したいというJR側の意図がありそうだ。
そもそも青春18きっぷは「お金はない、時間はたっぷりある」という人向けの切符だ。大人になると「時間が足りない。お金で解決できるなら割高でもいい」となる。青春18きっぷは本来の趣旨、「若い人に鉄道旅を楽しんでもらいたい」に立ち返る。これがJR各社の提案だと思われる。それがうまくいくかどうか、この冬の売れ行きにかかっている。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「青春18きっぷ」包囲網が完成? JR各社の乗り放題きっぷがそろった
「青春18きっぷ」が発売される。片道71キロメートル以上の往復で元が取れ、LCCや夜行バスでワープしてから使うのもいい。だが、ほかの交通手段と組み合わせるなら「青春18きっぷ」にこだわる必要はない。「青春18きっぷ」に代わるきっぷをつくるなら、筆者には心待ちの大本命がある。
豪華観光列車の成功に「青春18きっぷ」が必要な理由
旅行業、レジャー産業の価値観を理解すると、鉄道会社の若者への取り組みの重要度が理解できる。時間消費型の若者が成功して資金消費型、富裕層になる。そのとき、彼らの遊びの選択肢に列車旅の記憶がある。そこが重要だ。
年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。