人材つなぎとめへ 企業は「賃金体制」どう見直すべきか?:人材獲得 大競争時代(1/3 ページ)
連載「人材獲得 大競争時代」第5回は賃金制度そのものの望ましいあり方について、調査データを踏まえて考える。
連載:人材獲得 大競争時代
人手不足が深刻化し、採用難が進む中、企業は人材確保に向けてどのような手を打てばいいのか。求職者に選ばれる企業の特徴とは――。さまざまな事例を通じて、採用がうまく進む企業の特徴を明らかにする。
「賃上げ」が経済社会における大きな関心事となっています。政府の2024年度の「骨太の方針」でも、賃上げの定着・促進が政策の柱として盛り込まれています。
本連載の第4回では、採用活動において求職者に魅力的な賃金を示すにあたり、「稼ぐ力」を高めるための戦略、企画人材の重要性とともに、賃金制度の運用を変えた事例を紹介しました。今回は、賃金制度そのものの望ましいあり方について、調査データを踏まえて考えてみたいと思います。
津田郁(つだ・かおる)
金融機関を経て、2011 年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て、現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。経営学修士。
笠井彰吾(かさい・しょうご)
国会事務局での勤務の後、2019年、リクルートジョブズ(現リクルート)入社。ジョブズリサーチセンター研究員を経て、現職。
企業内における賃上げの「昇給幅」は?
まずは「内部労働市場」――すなわち、企業内における賃上げの実態に注目します。リクルートでは2024年3月に「企業の給与制度に関する調査」を実施しました。企業で人事評価・賃金制度にまつわる業務の責任者や中心的な立場を担う3000人超を対象にアンケートを行い、正社員の基本給がどのように決まるのか、社内でどのような昇給が行われているのか、実態把握を試みました。
調査の結果、「正社員の基本給を決めるにあたって一番考慮している項目は」の問いに対しては、「当期(現在、またはこれから迎える査定期間)に関する項目」を選んだ割合が管理職・非管理職ともに7割台に達しました。「過去の実績」より、「今後の業務や期待・役割」で基本給を決める企業の方が多いことが見てとれます。
では、従業員が最高評価の査定を受けた場合、昇給幅はどれくらいなのでしょうか。昇給幅が「2%未満」と回答した割合が管理職・非管理職いずれも5割台と、半分以上を占めました。「5%以上」とした割合は、管理職・非管理職いずれも2割台でした。
転職で「1割以上賃金アップ」36% 過去最高
一方、「外部労働市場」――つまりは「転職市場」に目を向けてみましょう。
前回記事でも紹介した通り、リクルートでは転職エージェントサービス「リクルートエージェント」を利用した転職者を対象に、転職時における賃金の変化を四半期ごとに分析・集計しています。最新の2024年7〜9月期では、前職と比べて賃金が1割以上増加した転職者の割合は、36.1%でした。統計の始点(2002年4〜6月期)以降、過去最高値を更新しました。
この連載でもお伝えしてきたとおり、昨今、人手不足が深刻化しています。社外の人材を採用するため、企業は魅力的な賃金を提示する必要性を感じており、求職者に対してより高い賃金を提示する傾向にあります。転職で1割以上の賃金アップを果たす人の割合が近年顕著に上昇しているのは、こうした傾向の表れと言えるでしょう。
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