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忘年会は魔法の杖なのか? 「飲みニケーション」を信じる組織に足りないモノ河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/2 ページ)

年末になると「忘年会は必要か?」「忘年会に残業代は払うべきか?」など議論になるのが恒例行事と化しています。ある調査では「20代は意外にも忘年会の参加に前向きだ」という結果も出ており、若手も上司層もそれぞれの目的で「飲みニケーション」を求めているようにも取れます。しかし、本当に必要なのは「飲みニケーション」なのでしょうか? 河合薫が考察します。

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「令和の忘年会」にお酒は必要なのか?

 若者が忘年会に前向きになった背景には、その忘年会のスタイルの変化が関係しているのかもしれません。番組では「昭和の忘年会」と「令和の忘年会」のカタチの違いを解説していました。

 1987年の昭和の忘年会が大きな宴会場で大人数だったのに対し、令和は小さなテーブルで少人数。昭和の忘年会は一目で上司と部下、先輩と後輩といったヒエラルキーが分かるのに対し、令和は誰が上司で部下なのか、誰が年上で年下なのか分かりません。


画像提供:ゲッティイメージズ

 昭和は上司に促されて若手が立ち上がってお酒を飲み、お酒の回ったおじさん社員がモノマネをし、若い社員は出し物を披露するなど大騒ぎしているのに対し、令和はしっぽり、こじんまり、静かに語り合っていて、まるでホームパーティのようでした。

 私はいわゆる「普通の会社員」の経験がありませんが、若い時に参加した忘年会は、どれもこれも「昭和型」です。普段は会うことも話したこともない、年上のおじさんたちに挟まれ、お酌をし、おじさんたちのくだらない、改め、たわいもない話に、ひたすら愛想よく相槌をうつ。ドラマで見た「ネクタイを頭に巻いてカラオケを歌うおじさん」が「本当にいるんだ!」と驚いたのも忘年会です。

 いずれにせよ、昭和の忘年会はお酒飲んで騒ぐイベントであり、令和の忘年会は上司や先輩とのコミュニケーションの場。若者のアルコール離れが進んでいることを鑑みると、ひょっとするとお酒は必要ないのでは? お酒、いりますか? 飲み会である必要あるのでしょうか?

 上司たちは「上司と部下の親睦を深めよう!」「風通しのいい会社にしよう!」を合言葉に、忘年会などの飲み会に“特別な交流”を求めがちです。

 しかし、飲み会をやったからといって上司と部下の親睦が深まるわけではありません。

 若者にも同じことが言えます。フランクに話したいだけなら職場で話せばいい。

 もちろんときには、飲み会がきっかけとなり、職場でも話がしやすくなったり、コミュニケーションがうまく取れるようになるかもしれません。しかし「飲みニケーション」は長時間労働と同じで、男性優位社会の働き方の名残でもあります。お酒が嫌いな人や育児をする人はなかなか行けません。

「飲みニケーション」より前に必要なモノ

 そもそも “上司部下のいい関係”は、上司が部下と1人の人間として向き合い、「あなたも立派な会社員」と敬意を示し、部下の可能性を信じてこそ実現します。

 極論をいえば、会議室であれ、食堂であれ「部下と正面から向き合いたい」という気持ちさえあれば、どうにでもなる。「いやぁ、会議室じゃ、堅いでしょ」というのであれば、コンビニで買ったスナックを置くだけでも空気は変わります。

 実際、上司と部下のいい関係の風通しのいい会社では、酒の力を借りなくとも、ちゃんと互いに通じ合い、寄り添える瞬間が存在します。その先に「じゃ、一杯やろうか」「酒でも飲みながら、ちょっと話をするか」と、職場ではなかなか話すことができないプラスアルファを補うために酒場を利用するから、「飲みニケーション」が意味を持つわけです。

 もし昭和の時代のようにイベントとして忘年会をやるなら、仕事納めの日に会社でやればいい。そうすれば、多くの社員が出席できるし、本当は出たいんだけど遠慮したほうがいいのかななどとジレンマに陥ったり、若者に過剰な気を遣ったりする必要もなくなると思うのです。

 念のため言っておきますが、私は「忘年会をやるな!」と言っているわけでも「飲み会をやるな!」と言いたいわけでもありません。働き方の変化や仕事の価値観の多様化、ハラスメント不安など、一昔前にはなかった「つながりを妨げる要因」の増加で、職場の「タテヨコのつながり」が淡泊になったり、若い世代が育たなかったり、チームとしてまとまりがなかったり……という現象に悩む上司は多いと思います。

 そんなとき、「だったら、飲み会でもやるか!」と安易に「飲みニケーション」に走るのは尚早。この手段のみでは、問題の本質は解決されないと言いたいのです。

 「でも、お酒が入ったほうがリラックスするし……」って? 酒を飲んでリラックスするのは、飲み屋がコンフォートゾーンの人だけ。お酒やお酒の場に苦手意識を持っている人は「気疲れするだけ」かもしれません。

 職場のつながりを活性化させるにはどんなことができるのか。チームや組織を束ねる立場の人は、自ら考えてみてください。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。

2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。


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