2015年7月27日以前の記事
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世界で「670兆円」超の経済効果が見込まれる生成AI どんな業務を担っていくのか、研究結果から分析

「生成AI導入による機械化」について詳しく考察していきます。生成AIなどの技術による労働への影響を考える場合、その技術が「労働補完型」の技術なのか、「労働置換型」の技術なのか、分けて考える必要があります。

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この記事は、『生成AIで世界はこう変わる』(今井翔太著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 それではここからは、「機械化による影響を受ける」という事象についてもう少し詳しく考察していきます。

 実は先ほどから、「AIによって仕事が奪われる」という表現は一度もしていません。ここまで議論してきたのは、ある職業が影響を受けやすいか、受けにくいかというものです。生成AIなどの技術による労働への影響を考える場合、その技術が「労働補完型」の技術なのか、「労働置換型」の技術なのか、分けて考える必要があります。

生成AIは労働補完型? 労働置換型?

 労働補完型の技術とは、人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたり、生産性を上げたり、新しい仕事を生み出すきっかけになるような技術です。一方の労働置換型の技術とは、文字通り人間の労働を完全に置き換え、人間が介在する余地をなくしてしまうような技術です。

 労働がある技術の影響を受ける場合、その技術が労働補完型であれば、単純に現在の仕事を奪われるという事態にはなりません。むしろ、その技術によって労働が効率化され、賃金が上昇する可能性があります。仮に現在の労働がほとんど機械に置き換わってしまった場合でも、その技術自体が新たな労働を生み出すことで、そのマイナスの影響を打ち消すことができます。

 第二次産業革命で登場した電気や、それを応用した大量生産技術などは労働補完型の技術であったとされ、実際に当時の雇用は増え、賃金も上昇したという研究結果が出ています。

 逆に、産業革命初期に登場した紡績機、力織機などは労働置換技術であったとされ、スキルを持った労働者が不必要になり、そのような労働者が就ける代わりの仕事も生み出さなかったようです。

 なお、この労働補完型か労働置換型かという議論は、あくまでも影響を受ける労働者の視点からの問題となります。どちらの技術であっても、最終的に産業発展が起きれば、それらの技術を採用した資本家や後世の人間は、その発展の利益を享受できます。初期の産業革命で生まれた技術はほとんど労働置換型でしたが、人類の産業の発展という観点で見ると、すさまじい恩恵をもたらしました。


(写真はイメージ、ゲッティイメージズより)

 それでは生成AIは労働補完型の技術なのでしょうか。それとも労働置換型の技術なのでしょうか。

 実は、その技術がどちらであるかは、技術そのものだけを見ても分かりません。仕事の一部を自動化するのは補完型/置換型のどちらでも同じですが、人間が介在する余地が残るかどうかは、その仕事のもともとの複雑さに依存します。元の仕事が一定以上複雑な場合、技術を投入しても、その技術自体をコントロールする人材や最終的な出力を責任を持って選択する人材は依然として必要です。

 また、その技術が新しい仕事を生み出すかどうかは、正確に予測しようがありませんし、もし生み出すとしても、その仕事がどのようなものになるかは未知です。

 現時点では、研究者の間でも意見が分かれています。どちらかというと、生成AIは労働補完型の技術であり、既存の労働をより生産的に、より快適で質が高いものにするという説が多い印象です。

 ただし、完全に今の雇用が維持されるという楽観的な考えもまた少ないようです。新たなスキル獲得に向けた教育の提供や、雇用が失われた場合のセーフティネットの整備など、社会的、政治的な取り組みの必要性が強調されています。

670兆円以上の経済効果を見込む 生成AIはどんな業務を担う?

 ここからは具体的に、労働のどのような領域に生成AIが関わってくるのか、そしてそれがどのような恩恵をもたらすかを見ていきます。

 生成AIがどれだけ経済的な利益をもたらすのか、どれだけ生産性を向上させるのかについては、すでにいくつかの試算が出ています。

 マッキンゼーの報告では、生成AIにより670兆円以上の経済効果が世界にもたらされるとしています。これはすさまじい額です。イギリスの国内総生産が450兆円程度ですから、生成AIによってイギリス一国の1.5倍もの経済効果が世界にもたらされることになります。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)は、プレリリース、短文レポート、分析報告書や計画書、電子メールでのやりとりなど、文章執筆に関わる仕事に関して、生成AIが与える具体的な影響について調査しています。それによると、ChatGPTをこれらの仕事に使うことにより、仕事を終えるまでの所要時間が平均40%減少し、アウトプットの質も18%向上したとのことです。この実験でChatGPTに触れた労働者は、「実際の業務でChatGPTを使用したい」と答える割合が実験後に2倍になっています。


業務タスクにおけるChatGPT使用の有無による生産性の比較(『生成AIで世界はこう変わる』より、以下同)

 また、これは複数の研究で報告されていることですが、生成AIを使うことにより、労働者間のスキルの不平等が減少したという事実があります。つまり、すでに高いスキルを持っている労働者への影響は最低限で、新人労働者などに対して最も大きな影響を与えたということです。多くの場合、スキルが低い労働者が、スキルの高い人と同等のアウトプットができるようになるとされています。


業務タスクにおけるChatGPT使用による業務満足度と自己効用感の向上

 ただし、これらの研究の見方には注意が必要です。まず、これらの研究は長期的な雇用への影響については考慮していません。企業や労働者が生成AIを採用することで、労働市場には長期にわたって大きな変動があることが予想されますが、それは実験室での1回きりの実験で測ることはできません。

 需要の大きな伸びが期待される分野であれば、生成AIによる生産性の向上がそのまま市場の拡大につながります。労働者が以前より高い生産性を得ることにより、以前には対応しきれなかった潜在的な顧客に対するサービス提供が可能となります。その結果、当該分野の雇用は増加することになります。

 一方、需要がすでに頭打ちだった場合は、生成AIを使うことで一人一人の労働者が対応できる量が増加するため、必要な労働者の量が減り、雇用の減少につながる恐れがあります。

 こうした外部的な要因が、とある技術が労働に与える影響を分析するうえで難しいところです。これらは本質的に長期にわたる検証が必要な問題であり、いくら生成AIを使った短期的な実験を行っても、結論を出すのは困難です。

 おそらく今後も、生成AIと労働に関する実験は多く出てくるでしょうが、そこでいくら生産性の向上などが強調されていても、雇用や賃金などは外部要因によって決定されることを理解しておく必要があります。

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