日本の研究開発が危ない 旭化成社長が「AIは武器になる」と確信したワケ:新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜(1/2 ページ)
「2025年 新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜」。1回目はDX銘柄に4年連続で選定されている旭化成。工藤幸四郎社長は研究開発について「日本全体が危機的な状況だと思う」と吐露する。発言の真意を聞いた。
2025年の幕が開けた――。21世紀も「4分の1」、つまり四半世紀が過ぎようとしている。
2024年のキーワードはAIだった。生成AIは単なる業務効率化に限らず、企業やビジネスの在り方を根本から変えようとしている。世界中の経営者がAIと向き合うことから逃れられない状況だ。世界経済や政治情勢も混迷を極めていて、経営者にとって企業のかじ取りはより難しくなっている。2025年、経営者が持つべき視座とはどのようなものなのか。
2025年 新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜
富士通、NEC、旭化成、LINEヤフー、電通、日本HPの社長に独占インタビュー。今年の展望、そしてAIを活用して自社をどう伸ばしていこうとしているか具体策を聞く。
1回目:本記事
2回目:電通社長に聞く「改革の現在地」 AI活用は広告業をどう変える?
3回目:日本HP
4回目:富士通
5回目:NEC
5回目:LINEヤフー
「2025年 新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜」では、経営に関するさまざまなヒントを届けていく。富士通、NEC、旭化成、LINEヤフー、電通、日本HPの社長に2025年の展望、そしてAI活用を通じて自社をどう伸ばしていこうとしているか、その具体策を聞いた。
最初にレポートするのは、経済産業省などが選ぶDX銘柄に4年連続で選定され、開発・製造・マーケティングなど各方面でDXを進めてきた旭化成だ。同社は【旭化成社長に聞く「事業ポートフォリオ転換のワケ」 トランプ政権誕生の影響は?】でレポートした通り、工藤幸四郎社長の指揮のもと、事業ポートフォリオを転換してきた。
工藤社長は「当社は生成AIを、日本の中でも比較的早くから活用してきた。AIはこれから大きな武器になる」と話す。旭化成の“企業城下町”である宮崎県延岡市に生まれた工藤社長。2022年に「創業の地」出身者として初めて、同社のトップに就いている。しかもそれは創業100周年のタイミングだった。
工藤社長は研究開発について「日本全体が危機的な状況だと思う」と吐露する。発言の真意を聞いた。
工藤幸四郎(くどう・こうしろう)1982年に旭化成に入社、2008年に旭化成せんいのロイカ事業部長、16年に旭化成の上席執行役員、2021年に常務、2022年4月から社長。65歳。宮崎県延岡市出身。入社以来、繊維一筋の経歴で、ロイカの米国工場閉鎖や、セージ社の買収などを指揮した(アイティメディア撮影)
イノベーションを起こすには“クレイジー”であれ 理由は?
――2024年は生成AIが流行しました。旭化成ではAIをどのように活用していきますか。
当社は生成AIを、日本の中でも比較的早くから活用してきたと思います。メーカーなので、とりわけ重要なのは生産性向上に資するかどうかという点です。例えばリスクを低減させる取り組みとして、現場の危険予知に役立てるために生成AIを活用し、工場でのトラブル防止や品質向上に生かしています。
競争力を強化するための材料の用途探索でも活用を進めています。これは機械学習などを活用して材料開発の効率を高めるMI(マテリアルズ・インフォマティクス)などにも通じる部分があり、AIはこれから大きな武器になると思います。
いまは日本全体で、工場現場にいるベテラン社員がかなり減少しています。紙でしか残っていない過去のさまざまな記録などをデータ化しておくと、トラブルが起きた時にベテラン社員がいなくても対応できるなど、危険予知の対策は人手不足だけでなく経験不足を補う重要なツールになると思います。
――旭化成は早くからDXに取り組み、DX銘柄にも選ばれてきました。その狙いは何でしょうか。
やや先行投資型で2020年前後から人材を集めて「デジタル共創本部」という組織を作りました。その本部長には日本IBM出身の久世和資氏に就任してもらい、旭化成のDXを進めてきました。
DXで最も重要なのは現場だと考え、現場とどのようにリンクさせていくかを真剣に検討してきました。現場が主役でDXはそのためのツール。この考え方のもとにスタートしたので、活動に説得力が出てきて、社内の理解を得られました。こうしたことが評価されてDX銘柄にも選ばれてきたのだと思います。
――過去に米国のロイカ工場閉鎖などを経験されてきました。事業を撤退するときに心掛けていることは何ですか。
繊維事業で育ってきましたが、1990年代にナイロン、2002年にレーヨン、2003年にアクリル繊維、2009年にポリエステルなど汎用繊維を続けざまに撤収してきました。私が弾性繊維のロイカ事業部長だった時に、買収した米国工場の撤収を進めました。
撤収は最後の選択肢です。それまでに引き取ってくれる会社があれば事業を譲渡して、働いている従業員が職を失わない方策を取るのが良い選択なのです。
2024年は血液浄化事業と、診断薬事業の2つの譲渡を決定しました。譲渡先の会社の、この事業や投資に対する考え方、成長へ向けての見方が極めて納得できるものでした。従業員は旭化成を離れることによって寂しい思いをするでしょうが、新しい会社のもとで運営した方がさらに事業が発展し、成長できると考え、事業譲渡を決めました。もしそうでなければ、事業を譲渡しても従業員が不幸になります。
――2018年の繊維事業本部長時代には、米国の自動車内装材メーカーのセージ社の買収を指揮しました。どういう狙いだったのでしょうか。
この買収では、大きな経験をさせてもらったと思っています。
繊維事業本部長だった当時は、撤収が多かった繊維分野を、いかにして成長させていこうかと考えていました。そんな時に、セージ社は自動車の内装材として強い繊維素材を持っていたので、買収することによって当社の繊維事業を強くしたいという思いがありました。
撤収が続いていた繊維事業を「逆に伸ばそう」という戦略で、買収を仕掛けました。買収後も経営陣が残ってくれて、状況の変化に応じたアジャイルな経営がしっかりできているので買収して良かったと思っています。
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