採用難だった老舗しょうが企業、お金をかけずに応募7倍 「脱・ハローワーク頼み」戦略の裏側(2/2 ページ)
高知県のしょうが企業・あさのは採用に苦労していた。ハローワークからの流入が減少したことに加え、離職率も高かった。そこから費用をかけずに、どのように応募を7倍に増やしたのか。取材した。
8カ月で応募7倍 「企業理念に共感した」との声も
engageの本格活用からおよそ8カ月で、応募数は13件から100件へと7倍以上に増加した。この数字は東京都・大阪府の営業所の営業職やアルバイトの応募も含まれるが、高知県からの応募も半数を占めている。
応募者の傾向にも変化が表れた。「面接時に応募のきっかけを必ず聞くのですが、engageで会社の理念や方針を見て共感したという声が一番多かったですね。また、情報を細かく載せている姿勢自体を評価してくれる方も増えました」と吉本氏は手応えを語る。
また、最初にengageで企業情報を確認し、その後ハローワーク経由で応募するケースも多く見られたという。情報発信の充実が、別チャネルの応募者の企業理解も促進する形となった。
engageでの採用サイト立ち上げと並行して、同社は採用プロセスの改革も進めた。外部顧問の提案を受け、それまで非公式に行われていた社員による紹介採用を制度化。紹介者へのインセンティブ制度を整備し、「リファラル採用」として本格的に運用を開始した。
この制度を社内に浸透させるため、吉本氏は採用サイトを社内広報のツールとしても活用。「社員にも採用サイトを見てもらうことで、改めて会社の理念や方針への理解を深めてもらえました」と説明する。
さらに、社員向けのLINEアカウントを開設し、採用サイトの更新情報や新規求人情報を共有。社員が気軽に採用情報にアクセスできる環境を整備したことで、年間4〜5人ほどのリファラル採用が実現している。これは年間採用数の約20%を占める重要な採用チャネルとなった。
「採用プロセスを整備したことで、会社の理念や方針への理解が深い人材の採用につながり、結果として離職率も10%超から6〜7%程度まで改善しました」と吉本氏は手応えを語る。
無料でも効果は出せる 採用のデジタル化
2025年4月入社の採用では、高卒3人、大卒1人という目標を早期に達成。同社の取り組みは、グループ企業にも広がりを見せている。茨城県の子会社もengageを活用した新卒採用に成功し、その社員は3年目を迎え、将来の管理職候補として期待されているという。
地方企業の採用は今でもハローワーク経由が主流だ。しかし、この状況は変わりつつある。同社のように、まずは無料で使えるデジタルツールを活用して企業の魅力や理念を発信し、それを従来の採用チャネルとも効果的に組み合わせることで、地方企業特有の採用課題を解決できる。
採用担当者不在から始まり、試行錯誤を重ねながら独自の採用改革を実現した同社の取り組みは、デジタル活用に踏み出せていない地方企業にとって、具体的なロードマップを示すものといえるだろう。
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