池から「消えた」イモリが…… ECで「絶滅危機種」売買、責任はどこに?(2/2 ページ)
絶滅危機種がECで売買されている。なぜこんなことが起こっているのか? そして責任はどこにあるのか。
ECサイト上の「情報不足」は何を招くのか
ECサイトで販売されている野生生物は「野生から捕獲」「飼育下で繁殖」と先述したが、サイトによっては出品由来が記載されていないことも少なくない。野生個体への影響を判断するために欠かせない情報なのにもかかわらず不足しているのが実態だ。
加えて、柴田氏は「捕獲地が分からないことも課題」と指摘する。
「野生生物は同じ種であったとしても、保全上の懸念がある地域とそうでない地域に分かれる場合があります。また地域によって捕獲の規制の有無は変わります。その個体が合法的に捕獲されたものであるかを把握するためにも捕獲地を示す必要がありますが、記載がないものも多数存在します」
実際、由来に関しての記載がない、もしくは不明瞭な出品は全体の40%に上った。在来種においても、63%が由来または捕獲地の記載のない出品だった(「由来の記載がない」「野生捕獲と記載(捕獲地の記載なし)」の合算)。地域の生態系に影響を与える可能性はもちろん、合法性の観点からも問題があるといえる。
企業はレピュテーションリスクを考えられているか
この状況を踏まえ、プラットフォーマーに対し法律でカバーすればいいのではないかという議論があるかもしれないが、柴田氏は「非常に難しい点がある」と話す。
なぜか。法律をつくる場合、まずは生物の現在の生息状況や取引の規制による効果を検証する必要があるためだ。そして種を法的に保護の対象にするのに10年かかるという研究結果も存在する。法律を待っていると守れるものも守れなくなってしまうという。
「プラットフォーマーと話していると『法律で規制されていないものを規制するのはできない』と言われることがしばしばありますが、そうではないと思います。懸念のある取引を自主規制として排除していくことはできるはずだと思っています」
これまでのプラットフォーマーの取り組みとして、そもそもメルカリやラクマのようなC2Cプラットフォームでは生体取引自体が禁止されている。Yahoo!オークションは2022年9月、環境省のレッドリストに掲載されている絶滅危機種・近危急種の個人による出品を原則的に禁止し、取引個体の情報(種名および由来、捕獲地)の記載を必須とするなどユーザー向けのガイドラインを改訂しルール化。さらに2024年7月には、野生から捕獲された両生類の出品を禁止するなど規定を追加している。
B2Cプラットフォームでは在庫数や実際の取引成立数が不明瞭で規模の把握が困難であり、法律上で問題がない限り取引できてしまうのが現状だ。
いまやECは、社会的なインフラにまで成長した。2023年の日本国内におけるB2CのEC市場規模は24.8兆円(前年22.7兆円)を記録(経済産業省「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」)。人々の生活に欠かせない存在といえる。
右肩上がりで成長を続けるECプラットフォームを運営する立場として、「取引の場を提供しているだけ」という恩恵だけを受ける姿勢は企業の社会的責任を十分に果たせていないことの表れではないか。また、絶滅危機種や近危機種の取り扱いを続けることは、将来的に企業のレピュテーションリスクを生み、ブランド毀損(きそん)を招くかもしれない。一度押された烙印をなかったことにするのは容易ではない。
野生生物の取引は自然環境の上に成り立つ。自社のプラットフォームが種や生態系に負荷をかけていることを認識し、実態を把握し改善していく責任は強まっていくだろう。
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