フジテレビの「ガバナンス不全」 日枝久氏の「影響力」の本質とは?(2/2 ページ)
フジテレビ問題の今後の焦点は日枝久氏の去就だ。フジテレビのガバナンスに焦点を当てて検討してみたい。
名著『失敗の本質』と重なるフジテレビ
フジテレビのやり直し会見2日前の1月25日、経営学者で、累計100万部超の名著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)の著者の1人である野中郁次郎氏が亡くなった。
この本は、なぜ日本軍が太平洋戦争で負けたかを組織論から分析したものだ。記者会見でも清水新社長がこの本について言及した。「(フジテレビの)企業風土について悪い点が出てしまった。『失敗の本質』にも出ていますが、組織にある上意下達の点。情報のたこつぼ化。目的が明確でなくなってしまっていること、取り違えてしまうこと。これらが、対応の面で(悪い方に)出てしまったと感じている」
この本に書かれている事例と、フジテレビの問題は重なる部分がある。日本軍でも上意下達によって、情報が上から下まで共有されない事態が起こった。フジテレビでもX子さんの希望とはいえ、情報を最少人数でとどめておくとしても、コンプラ室に共有するべきだっただろう。
また当時の日本軍は零戦(零式艦上戦闘機)などの戦闘機を開発していたものの、大艦巨砲主義を引きずり、戦艦を重視していた。だが世界のトレンドは、すでに戦闘機による戦いにシフトしていたのだ。フジテレビも、コンプライアンスや倫理観が古いままで、現代風にアップデートされていなかったのではないか。
「企業は社会の公器」だ。経営層は時代や価値観の変化に敏感でなければ務まらない。だがフジテレビのトップマネジメントは、その変化に気付けなかったのだ。
本当に変われるか?
不祥事は、経営者がするべきことをしなかった時に発生する。フジテレビが今回の問題によって根本から変われなければ、スポンサーからの信頼は帰ってこない。ただFMHの財務状況を考えると、同社が倒産することはほぼあり得ないともいえる。
日枝氏はすでに晩節を汚した。1月30日に開催された取締役会では日枝氏の進退について議論しなかったほか、本人からは退任を申し出ることもなかったと、清水新社長は明らかにしている。
日枝氏は、経営者としての度量と勇気が試されている状況だ。フジテレビの再生のために、新時代の担う後進に任せ、自らは引退できるかどうか。もし退任しないならば、新執行部が日枝氏に引導を渡すか、6月に開催予定の株主総会で再任を認められないかだ。
日枝氏の退任は、スポンサーにとってCM再開の1つの判断材料になる。第三者委員会後に結成される予定の新執行部は、新しい社風を形成できるのか。新執行部が、社員全員に倫理観を持たせられるかが、ガバナンスを効かせる第一歩だ。
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