現場は知っている「氷河期世代はむしろ優秀」、愚策重ねた企業が今からできることは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/2 ページ)
「賃上げの年」といった景気のいいフレーズを聞くことが増えました。しかし、その恩恵を受けていないどころか賃金が減っているケースもあるのが氷河期世代。ただ「就職する時代が悪かった」だけで愚策に振り回されてきた氷河期世代の問題について、企業はどのように向き合うべきなのでしょうか。
「賃上げの年」といった景気のいいフレーズを、メディアが好んで使い出したのは今から3年ほど前のこと。2024年は「去年(2023年)を上回る4%、5%増! 中小企業も! 非正規も!」と騒ぎ立てていました。
経団連も2023年の賃上げ平均3.99%(経団連集計)を超えるよう、さらなる熱量と決意で春闘にのぞむことが「社会的責務」とし、非正規雇用の賃上げや正社員登用の重要性も強調していました。
しかしなぜか、ちっとも庶民の懐は温まりません。「働けど働けどじっと手をみる」状態が続いている。なにせ、実質賃金があがらないのです。昨年の実質賃金は3年連続で前の年を下回り、一昨年と比べても0.2%の減少です。
物価高もさることながら、そもそも「賃上げ!」は若手中心ですから、子育てや親の介護など「お金がかかる」40代以上が楽になるわけがないのです。
実際、第一生命研究所が19年と24年の賃金増減率を年代別に算出したところ(外部リンク)、下記が判明しました。
- 最も伸び率が高いのは20代で、「20〜24歳」10.3%増、「25〜29歳」9.5%と全体で1割ほど増加。
- 次に高いのは30代で、「30〜34歳」5.8%増、「35〜39歳」4.8%増。
- 40代は「40〜44歳」0.1%増、「45〜49歳」2.1%増と微増にとどまり、「50〜54歳」に至っては3.0%減少。
40代〜50代前半は、いわゆる「氷河期世代」です。氷河期世代はその上の世代と比べ、賃金を抑制され続けた世代です。なのに賃上げの恩恵を受けていません。
日本の「6人に1人」が苦しむ、納得できないキャリアと格差
内閣府が総務省「全国家計構造調査」「全国消費実態調査」の個別データをもとに1994〜2019年の世帯所得の変化を分析したところ、25年間で年収の中央値は「550万円から372万円へ」著しく減少し、特に45〜54歳では94年の826万円から195万円も減少していました。
岸田政権の時に退職金まで減らそうとした「退職金課税制度の見直し」は2025年度(令和7年度)の税制改正では見送られましたが、経営者側の都合で不遇な状況に追いやられ、改善されないまま、今に至っている。
先日、氷河期世代の正社員率がバブル世代と同じになったとの報道がありましたが、経済格差は残り続けています。これまで私がインタビューをした氷河期世代の方の中には30代半ばでやっと正社員に転換できた人たちがいましたが、彼ら彼女らはもれなく「後から正社員になると年収が低い」と嘆いていました。
東京大学教授の玄田有史氏の調査では、3〜4割の人は正社員転換後も賃金が変わらず、収入が減ったケースも2割ほどあったことも分かっています(外部リンク)。
ただ単に「就職する時代が悪かった」というだけで、まったく腑に落ちないキャリア人生を余儀なくされているのが氷河期世代であり、その人数は人口の6人に1人に上ります。
国会ではやっと、本当にやっと「氷河期世代の経済格差」問題が取り上げられるようになりました。国家、企業ともに今後どれだけ実効性のある制度設計ができるかが最大の課題でしょう。
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