広島発の「石窯パン」 タカキベーカリーが“右肩上がり”を続ける秘密:地域経済の底力(2/2 ページ)
2025年で発売20周年を迎える「石窯パン」シリーズを販売するのが、広島市に本社を置くタカキベーカリーだ。事業は長年右肩上がりを続けていて、とりわけコロナ禍では内食需要の高まりも相まって大きく伸長した。地方企業ならではの苦労もあったという誕生秘話に迫る。
成長に陰り どう打開した?
関西エリアでの実績を提げて、同社は2007年に石窯パン専用工場であるタカキベーカリーつくば工場を新設。関東圏への本格展開を開始した。関東では電鉄系スーパーなど比較的高級志向の強い小売チェーンとの取引が拡大していった。
「関東でも初めからどんどん売れたわけではありません。提案活動を一つ一つ積み重ねて、知名度を上げていった結果です。取引先が辛抱強く販売してくださったことが、今につながっているのです」と福田氏は感謝する。
ただし、全てが順調だったわけではない。2016〜2017年ごろになると、ある程度販路を開拓し、伸び代がなくなってしまったことで成長に陰りが見える。加えて、価格帯の都合上、どうしても購買者は限定的になってしまう。
この状況を打開するため、2018年9月に石窯パンシリーズの大規模なリニューアルを実施。より多くの客層に受け入れられるよう、エントリー商品の投入やパッケージデザインの刷新を行った。「石窯パンはすごくいい表情をしているんです。その魅力がより伝わるように、中身が見えて、安心して買っていただけるようなパッケージにしました」と福田氏は説明する。
同時に、商品ラインアップも拡充。食事と一緒に楽しんでもらいやすい、小さめのミニフランスパンなどファミリータイプの商品や、菓子パン感覚ですぐに食べられるような1個入りのパンを発売して、日常でも気軽に手にとってもらえるようにした。
「品質第一、売上第二」
タカキベーカリーの経営の根幹にあるのは「品質第一、売上第二」という考え方。これは創業時から受け継がれてきた価値観だ。戦後間もない会社設立当時、配給された小麦粉には外皮などの不純物が混ざっており、そのまま焼くと黒っぽいパンになるのが当たり前だった。しかし同社は、丁寧にふるいにかけて白い小麦粉にし、さらにその頃は一般的だった新聞紙での包装ではなく、白くてきれいな紙でパンを包むことにこだわった。
品質を最大限にまで高め、顧客に価値を訴求するという姿勢は現在も変わっていない。従って、昨今の原材料価格高騰の中でも、質を落として価格を据え置くという選択肢は取らない。
「(小麦粉などの)原材料の値上がりによって、われわれも価格を上げさせていただきました。それは、お客さまに評価いただいている品質をぶらさないためです。価値を理解して買ってくださるわけですから、それを裏切らないクオリティーは何よりも大切だと考えています」(福田氏)
夕食や冷食文化にも「潜在的なニーズある」
全国展開は着実に進んでいるものの、まだ開拓の余地は大きいという。「お客さまからは『どこで買えるの?』という問い合わせが今でも多いです。北海道や東北には一部のみですし、関東圏や関西圏でもまだまだお届けできていないお客さまが数多くいらっしゃいます」と福田氏は申し訳なさそうに語る。
また、食文化の面でも課題がある。「われわれは夕食にもパンを提案したいのですが、実際は朝食か昼食が中心です。ただし、共働きの方が増えてきて、夕食を準備する時間があまりない中で、パンは準備も片付けも簡単なので、潜在的なニーズはあると考えています」と福田氏は強調する。
冷凍食品市場の拡大にも可能性を見出している。「最近は夕食のメインが冷凍食品という家庭も増えています。それにちょっとパンを添えていただければ、もう立派な食卓になります。そういう時代の変化に合わせた提案を今後していきたいですね」。
2025年に石窯パンシリーズは発売20周年を迎える。記念イベントの開催も計画されているが、それ以上に重要なのは、次の10年、20年に向けた挑戦だ。チャレンジ精神は同社グループのお家芸ともいえる。
「創業の時も素人同然で製パン業が始まりました。石窯パンも他社からは『なんて馬鹿げたこと』だと言われながら取り組みました。実はパンの冷凍生地を開発したのも当社です。今まで誰もやっていないことを素人の発想を持って新たにチャレンジする。それがこれからも大切です」
福田氏の言葉には、タカキベーカリーのさらなる成長への強い決意が感じられた。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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