設備の老朽化が進む「ローカル線」は、維持すべき交通システムか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
いまやほとんどの地方鉄道が瀕死の状態で、補助金無しでは運行を継続できない。まるで点滴で延命する末期患者のようだが、ローカル線という患者はもはや点滴だけでは生きていけない。老朽化した設備の交換が必要だ。このところ、そんな感想を持つ事例がいくつかあった。
鉄道は都市でしか通用しない
さて、鉄道はどうなのか。新幹線は便利だ。しかし地域の交通手段として便利なシステムだろうか。そこにはマイカーがあり、バスがある。運転免許がなくても、AIオンデマンドの乗り合いタクシーなら、自宅から行きたいところへ行ける。鉄道よりはるかに便利だ。道路交通のほうがずっと進化している。まだまだ未熟だけど、自動運転自動車も視野に入る。
それでも都市では鉄道という古いシステムが使われている。本来ならドアツードアのマイカー、バスやAIオンデマンド乗り合いタクシーのほうが便利だ。しかし、大都市は人口が多く道路が渋滞している。便利なはずのマイカー、バス、AIオンデマンド乗り合いタクシーを便利に使えない。だから「仕方なく鉄道を使うしかない」という見方もできる。
古いシステムに最新の技術を投入して、なんとか都会の輸送需要に応えている。そんな鉄道は、「仕方なく鉄道を利用する人が大勢いる都会」でないと生きていけない。
鉄道というシステムは時代後れだ。都会で仕方なく使わざるを得ない交通システムだ。そんな見方に切り替えたとき、地方で鉄道を維持することの必要性を考えるべきだ。道路交通はどんどん進化して便利になっていく。地方のほうが進化できるのだ。鉄道に固執すると道路交通が見えなくなってしまう。
私は地方交通で最も適したシステムは、AIオンデマンドバス、AIオンデマンドタクシーだと思う。法律が許せばライドシェアがいい。ご近所で手が空いた人にお願いして送迎してもらう。このとき、ライドシェアドライバーは専業では稼げないと思う。しかし副業であれば、隙間時間に小遣いを稼げるし、ご近所さんの役に立てる。
ここまでの話で、鉄道を残すための方法が見えてきたはずだ。道路交通と手を組んだ「便利な交通システム」の一員になるか、「楽しい乗りもの」に転じるしかない。「楽しい」のアイデアが観光列車であり、廃線跡のトロッコやレールバイクである。
楽しいものやサービスをつくるにも投資が必要だが、通常の鉄道運行よりも市場が小さいため、経済規模は縮小せざるを得ない。しかし、便利さで道路に負けたローカル鉄道が生き残る道は「楽しい」しかない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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