設備の老朽化が進む「ローカル線」は、維持すべき交通システムか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
いまやほとんどの地方鉄道が瀕死の状態で、補助金無しでは運行を継続できない。まるで点滴で延命する末期患者のようだが、ローカル線という患者はもはや点滴だけでは生きていけない。老朽化した設備の交換が必要だ。このところ、そんな感想を持つ事例がいくつかあった。
鉄道は「カネのかかる古いシステム」
私は鉄道の旅が好きだ。のんびりと車窓を眺め、駅弁を食らい、まどろむ時間が好きだ。しかし鉄道に詳しくなるほど、それができる状況は鉄道の経営にとって望ましくないことも分かってきた。
以前から私の持論は「売れるモノやサービスは、便利か、楽しいか、どちらかの要素が必要」だ。出版でいえば地図帳、特にロードマップは売れなくなった。電子版も厳しい。ネットの地図サービスやカーナビのほうが「便利」だからだ。マンガ雑誌は生き残っている。『週刊少年ジャンプ』はかつて650万部を売り全国紙を抜いた。現在は部数を減らしたとはいえ、いまだ100万部を超えている。「楽しい」から残っている。
便利なモノやサービスは、「もっと便利な」モノやサービスに置き換えられてしまう。しかし楽しいモノやサービスは、もっと楽しいモノやサービスと共存できる。
ローカル線が赤字になる理由は「便利ではないから」だ。なぜ便利でなくなったかというと、「もっと便利な交通手段があるから」だ。
交通手段の歴史を振り返ってみよう。まずは徒歩。次に馬車や牛車、日本では籠(かご)や人力車もあった。同時に船の時代もあって、次に鉄道が伝来する。鉄道は大量に人や物を運ぶ。人々が鉄道を利用するようになると、街道の拠点交通から馬車、牛車、籠、人力車が消えた。鉄道網の発展によって支線ができると船も減った。鉄道のほうが便利だと支持されたからだ。
このとき「馬車、牛車、籠、人力車、船を残せ。自治体が面倒を見るべきだ」という議論はなかっただろう。その結果、馬車、牛車、籠、人力車は街道から消えていった。ただし廃れはしない。「便利」ではなくなった交通手段は、「楽しい」で生き残った。これらの交通手段は観光地で生き残っている。
船はどうか。国内航路の客は鉄道に奪われ、国際航路の客は飛行機に奪われた。しかしクルーズ船として生き残っている。「便利」でなくなったモノやサービスは「楽しい」で生き残れる。例えば、日本刀は戦国時代の戦にとって「便利」な道具だった。しかし現在は観賞用、美術品として製造され、文化が残されている。
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