中小企業は“踏み台”なのか? 育てた若手が大手に転職、経営者が立ち返るべき原点は:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/2 ページ)
「育てた若手ほど辞めていく……」転職が一般的になり賃上げも進む中、若手社員の定着に悩む中小企業が後を絶たない。賃金や福利厚生では大企業にかなわない中で、経営者はどのように人材と向き合うべきなのだろうか。
「どういうわけか“惚れた若手”ほど、去っていく。うちは人材育成センターなのかと情けなくなります」──こうこぼすのは、従業員300人ほどの中堅企業の社長さんです。
中小企業が生き残るには「人」しかないと信じ、手塩にかけて育てるだけではなく、自主性を育てるための資格や語学取得のプログラムも増やしてきました。なのに「わが社よりも安定している大きなところ」に鞍替えする若手があとを絶たない。採用では学生集めに苦労し、入社後は辞める若手に泣かされる。
「物価高の影響もあるんでしょうね。賃上げしても、福利厚生を充実させても、大企業には太刀打ちできない。悔しいですね。本当に」
悔しそうに話す社長さんが紡ぐ言葉は、強きもの、大きいものだけが優遇される「今の日本社会」の歪みを物語っていました。
賃金も福利厚生も「大企業にかなわない」 どうしたら?
実際、若い人たちの大企業志向は高まりをみせています。
マイナビが実施した「2025年卒大学生就職意識調査」によると、「大手企業志向」は前年(24年卒)より4.8ポイント増の53.7%(絶対に大手企業がよい:9.8%、自分のやりたい仕事ができるのであれば大手企業がよい:43.9%)となり、3年ぶりに半数を超えました。
一方、最近は福利厚生が充実した企業に興味を示す若手も多く、実質手取りが増えるため“第三の賃上げ“と呼ばれています。識者の中には「賃上げが難しい中小企業は福利厚生の充実を!」と訴える人もいます。ただし、大企業の福利厚生は……かなりすごいです。
私自身、新卒で大手航空企業の客室乗務員になった際はその充実ぶりに驚きましたし、数年前、某大手新聞社が早期退職を募集した際の退職金の上限が6000万円だった、某テレビ局(キー局)では1億円程度だったなど、SNSで話題になることもありました。
フィールドワークのインタビューで「リストラされてしまった」と告白する目の前の人から、「退職金は1億円」という数字を聞き、衝撃を受けたこともあります。知り合いのキャリアコンサルタント(再就職支援会社勤務)によると、「勤務先が大企業だとリストラされても退職金1億円はザラ。日本の大企業って、福利厚生がやはりすごい」とのことでした。
……日本の大企業、あっぱれ! です。
やはり、生き残るには「人の可能性」を信じるしかない
とはいえ、どんなに賃上げをし、福利厚生を充実させようとも、過去の成功法則が全く役に立たない今、企業が生き残るには「人の可能性」を信じるしかないのもまた事実です。つまり、どんなに社員に裏切られ転職されようとも、「生き残るには人しかないと信じる経営」を続ける必要があります。冒頭の無念千万の社長さんの経営哲学は決して間違っていません。
そもそも人への投資という聞こえのいい言葉である「人的資本」は、英語ではヒューマンキャピタル(=Human Capital)で、この言葉が流行する前は社会関係資本を意味するソーシャルキャピタル(=Social Capital)が広く使われていました。
「キャピタル=資本」という言葉が使われるのは、投資がリターンを生み出すことを強調するためです。ソーシャルキャピタルは「人と人のつながりに対する投資」であり、ヒューマンキャピタルは「働く人の能力開発に対する投資」です。
どちらにも共通するのは「カネ、カネ、カネはもう古い! もうけたければ、現場を見よ」というメッセージです。いい現場をつくり、いい現場を残すことが一番の成長戦略であり、人を育て、人生の質を高め、人生に意味を与える現場こそが、未来に光を灯します。
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