EVは本当に普及するのか? 日産サクラの「誤算」と消費者の「不安」:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
日産の軽EV、サクラの販売が伸び悩んでいる。EVは充電の利便性に課題があることに加え、リセールバリューの低さが問題だ。ならばPHEVだ、という傾向もあるが、PHEVにも将来的に懸念される弱点がある。EVやPHEVを快適に使うためのシステム整備が求められる。
これからPHEVに起こり得る「最悪のシナリオ」
充電に時間がかかるというEVの不便さが普及を妨げている。ならばPHEVだ、と方針を転換しているのが、最近の世界の自動車市場に見られる傾向だ。
確かにPHEVのバッテリーに蓄電された電気を使い尽くしても、エンジンで走行したり発電したりすることで、走り続けられる。しかし、この充実した仕組みが逆に弱点となるケースも今後増えていきそうだ。
PHEVは、幕の内弁当だが食べ残せば無駄が多い。つまり、バッテリーに蓄電されている電力だけで走ることを繰り返すとエンジンは稼働しない。そうなると、エンジン内部はオイルによる保護膜がなくなり、オイルシールなども劣化してオイル漏れの原因となったり、燃料の劣化による燃料系統のトラブルを引き起こしたりする可能性が高まる。
そのため自動車メーカーはユーザーに対して、時々遠出したり、あえて充電しないようにしたりすることで、エンジンを始動させるように促すこともある。クルマ側でも、半年に1度は強制的にエンジンが始動するよう制御されているものもある。
トヨタ・クラウン エステートPHEVのパワートレーン。フロントにエンジンとモーター、リアにもモーターを備え、キャビンのフロア下には大容量のバッテリーが備わる。バッテリーの電力だけで走行を続けると、エンジンがほとんど使われないまま車体が劣化することになる(画像提供:トヨタ自動車)
だが、それでもエンジンがたいして使われないうちに廃車となれば、そのエンジンは金属ゴミと化してしまう可能性も高い。汎用性の高いエンジンであれば、海外に輸出して別のクルマに搭載することもできるだろうが、ハイブリッド用として専用設計されたエンジンの汎用性は低い。
搭載電池を載せ替え、再びPHEVとして利用し続けることが理想だろうが、実際には車重の重いPHEVは車体の劣化も避けられず、快適装備などの電子制御が故障する時期にもなってくる。そのため、エンジンだけが使われないままスクラップとなってしまう可能性も出てくる。
PHEVも、バッテリーの搭載量が大きければ、EVと同じようにリセール性は低下してしまうことになる。高年式のうちは人気がリセール性を支えるかもしれないが、やがてはPHEVも、車両価格は高いが乗り換える時には下取り価格が安くなってしまい、リピーターが増えにくい状況に陥ることが予測される。
EVに対する補助金よりも、充電網の整備にもっと財源を当てるべきではないだろうか。また、急速充電器の利用スペースに、充電の必要がないエンジン車やオートバイを止めていたり、充電が終わったEVやPHEVをそのまま駐車していたりするユーザーもいる。
首都高速の大黒PAに設置された急速充電スタンド。最大6台が同時に充電できるが、多い時には上の写真のようにほぼEVで埋め尽くされる。しかし、日時によってはバイクが連ねて止められたり、下の写真のように充電できないクルマで埋め尽くされたりする。コンビニ横のスペースで、便利だからと利用するドライバーも多いのだ(一部加工、筆者撮影)
これらに対する罰則などの法整備やシステムを作り上げるのも、EVを快適に使うために必要な対策だろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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