王者Suicaに挑むタッチ決済、その実態と課題:「ポイント経済圏」定点観測(2/5 ページ)
電車などの乗車時に、クレジットカードのタッチ決済が使えるようになる動きが徐々に広がっている。これまで交通系ICカードの分野ではSuicaが圧倒的な存在感を誇っていたが、今後この勢力図はどう変化していくのだろうか。
インバウンド対応が推進の原動力
では、なぜ鉄道各社はタッチ決済乗車を推進しているのか。一つはインバウンド対応にある。首都圏で初めてタッチ決済に対応した江ノ島電鉄の嶋津重幹常務取締役は、「外国人観光客の利用が多い。自国で日常的に使っているクレジットカードがそのまま使えるタッチ決済は、券売機での切符購入や係員への問い合わせといったストレスから解放され、客と係員双方に非常にメリットがある」と語る。
実際、海外でのタッチ決済乗車の利便性は見逃せない。筆者が2024年にシンガポールを訪れた際、地下鉄は全面的にタッチ決済に対応しており、日本から持参したクレジットカードをかざすだけで乗車できた。専用ICカードの購入やチャージの手間なく、一瞬で改札を通過できる快適さは印象的だった。以前は現地で交通カードを買い、残額が余っても払い戻しの手続きが面倒で諦めることが多かったが、その課題が一気に解消された。
タッチ決済乗車のメリットはインバウンド対応に限らない。日本国内でも、全鉄道がSuicaに対応しているわけではない。熊本県内のある事業者のように、交通系ICカードを廃止してタッチ決済乗車に移行するところも出てきた。理由の一つはコストだ。熊本県の例では、交通系ICカードの更新費用が12億円であるのに対し、タッチ決済は7億円程度で済むという。
ただし、各事業者がタッチ決済に関心を寄せるのは、コストだけではない。本命は、国土交通省も進めるMaaS(Mobility as a Service)への対応だろう。国土交通省のWebサイトなどによると、MaaSは「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービス」と定義されている。要は「切符を買って乗る」だけだった従来から、「さまざまな移動手段や支払い方法をスマホなどで一括して利用できる」よう進化させたものだ。
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