「代行ビジネス」活用で農園作業……進まない障害者雇用、隠れた問題点も(2/2 ページ)
2024年4月より、障害者の法定雇用率が引き上げられる。未達成の場合、行政指導を受けたり企業名が公表されたりすることで企業イメージが低下するリスクや、企業規模によっては納付金の負担も生じる。それでも半数以上の企業が達成できていない背景には、さまざまな困難や課題がある。
「代行ビジネス」活用で農園作業……法定雇用率を達成していても残る課題
法定雇用率が達成できている会社にも課題は多い。一つは障害者雇用の「代行ビジネス」の問題だ。
障害者が働く場を企業に提供し、そこで働く障害者を紹介、雇用管理なども代行する「障害者雇用代行ビジネス」(以下、代行ビジネス)を展開する会社が年々増えている。厚労省の調べでは、2024年11月末の時点で39社あった。それを利用する企業は社名が把握できたものだけで333社、このスキームの上で働く障害者は9355人以上にのぼるという(厚労省 障害者雇用ビジネスに係る実態把握についての資料より)。
代行ビジネスは、顧客企業に紹介して雇用された障害者を自社の農園やオフィスで働かせる。先の調査では農園が7割を占め、これは「農園型障害者雇用」とも呼ばれている。ここで働く障害者は、雇用主の会社の事業とは全く関係のない農作業に従事することになる。
代行ビジネスがあるおかげで、企業は法定雇用率を達成できる、障害者は就労の機会を得やすいというメリットはある。しかし、障害者は雇われた会社で他の社員と交わって働くことはなく、会社への帰属意識や、事業に貢献しているというやりがい、頑張ればキャリアアップしていけるという展望が持ちづらい。
会社の方も、新たに人を雇っているのにコストが生じるばかりで生産性の向上に寄与しないという問題がある。また、他の社員の間に障害への理解や障害のある人と一緒に働くためのノウハウが蓄積されない。これは「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現」という国の障害者施策の基本理念に反する状態だ。
代行ビジネスに頼らず自力で障害者を雇用する企業も、ノウハウや周囲の理解不足ゆえに仕事上のミスや人間関係のトラブル、その結果としての離職率の高さなどに苦労しているところが多い。
特に近年は精神障害者の雇用が大幅に増加しているが、他の障害のある人と比べて定着が難しい傾向にある。就業1年後の定着率は知的障害者が68.0%、身体障害者が60.8%に対し、精神障害者は49.3%だったという調査報告もある(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」)。
これは、精神障害者が雇用義務の対象となったのが2018年と遅かったこともあって企業側のノウハウが乏しいことや、精神障害を巡る社会的な偏見が根強いことなど、複数の要因が考えられる。
ここまで、日本企業において進まない障害者雇用の現状や、法定雇用率が達成できている会社における問題などを紹介した。
後編では、障害者雇用での採用が社員全体の3.08%と法定雇用率を余裕でクリアしている“先進企業”、マネーフォワード社の取り組みを紹介する。
後編:障害者雇用「3%超」の先進企業、マネフォが求職者面接で必ず聞く質問とは?
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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