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KDDIが生成AIフル活用で挑む! 「ワコンクロス」は人手不足の業界を救えるか変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(1/2 ページ)

企業はビジネスプラットフォーム「ワコンクロス」によって、どのように課題解決できるのか。AIの強みをどう生かせるのか。ワコンクロスを担当するビジネス事業本部プロダクト本部の野口一宙副本部長に狙いを聞いた。

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 2024年5月からKDDIが展開するビジネスプラットフォーム「WAKONX」(ワコンクロス)。ワコンクロスは、同社が掲げる中期目標「KDDI VISION 2030」を実現するためのブランドとして位置付けている。「AI時代のビジネスプラットフォーム」と銘打っており 、明確に生成AI活用を核としている点が特徴だ。

変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜

日立製作所、富士通、NECなどの国内大手が、DXなどのデジタル関連の事業やサービスをブランド化する動きが広がっている。各社はどんな強みを持ち、日本企業をどのように変えていこうとしているのか。各社のキーマンに丁寧に聞いた。

1回目:なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす

2回目:なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る

3回目:NEC「ブルーステラ」誕生の舞台裏 コンサル人材を自社で育成する強みとは?

4回目:東芝のDXブランド「TOSHIBA SPINEX for Energy」 キーマンに聞く圧倒的な強み

5回目:寡占市場の電力業界 TOSHIBA SPINEX for Energyの「ITベンダーにはない強み」とは?

6回目:KDDIのDXブランド「ワコンクロス」 パートナー企業との「リカーリングモデルの利点」は?

7回目:本記事

 ワコンクロスでは、通信やクラウド、大規模計算基盤といったKDDIの強みを生かし、企業のDXをより迅速に支援することを目的としている。特に「ネットワーク」「データ」「バーティカル」という3つの機能群を軸に、モビリティ、リテール、物流、放送、スマートシティ、BPOといった6つの「協調領域」に最適化した課題解決を提供する。

 企業はワコンクロスによって、どのように課題解決できるのか。AIの強みをどう生かせるのか。前編に引き続き、ワコンクロスを担当するビジネス事業本部プロダクト本部の野口一宙副本部長に狙いを聞いた。


野口一宙 2000年に入社後、auのサービス企画を担当。2008年からは通信付電子書籍などの個人向けIoT端末の企画開発に従事。2015年から法人向けIoTの中期戦略・サービス基盤企画の担当を経て、2019年よりサービス企画部長として法人向け5G・IoTサービスの企画開発を推進。2024年4月より現職にてWAKONXの推進を担当している

スピード感に課題あり ローソンとの取り組みの進捗は?

――ワコンクロスとしての売上目標は設定していますか。

 売り上げ目標を設定するかについては、今まさに議論をしている最中です。

 当社のIR上では「ベース」と「グロース」という2つの領域に分けて事業を捉えています。「ベース」は既存のネットワークサービスを指し、「グロース」はIoTや、企業のITインフラの運用や保守を外部の専門業者に委託するマネージドサービスなど新しい取り組みを含む成長領域です。

 ワコンクロスは、この「グロース領域」に非常に近い位置付けにあり、グロース領域を伸ばしていくための象徴的な存在として位置付けている状況です。

――現在の課題として、技術的もしくは、ビジネス的観点で何か考えていることはありますか。

 現時点での課題として挙げられるのは、現場で得られた知見や成果をいかに早く横展開し、多くの顧客に提供できるかというスピード感です。これまで私たちは、各業界やテーマごとに現場を持ち、それぞれの課題解決に向けたサービス開発や取り組みを進めてきました。

 2024年度には多くの学びがありましたが、それを迅速に商品化し、世の中へ提供することが必要です。通信キャリアとしての強みを生かしながら、社会的要請に迅速に応えることが重要だと考えています。

――2024年度に学んだこととは、具体的にどのようなものでしょうか。

 具体的には、現場作業員がどのような作業をしているかを、深く理解する必要性を痛感しました。データ活用やアプリケーション開発においても、実際の現場で何が求められているかを正確に把握することが欠かせません。これには、優れたパートナー企業との協力も含まれますが、その前提として、現場で起きていることを知らなければ、適切なソリューションを提供することができません。

 このような学びを経て、現場で得た知見をもとにした商品化やシステム開発へとつなげています。

――ワコンクロスでは、ベンチャー企業との連携も進めているのでしょうか。

 はい。KDDIグループ内にはIoT回線からデータ解析まで幅広い技術やリソースを持つ優れたパートナーがおり、パートナー企業とのシナジーを最大限に活用しています。また、スタートアップ企業との連携も非常に重要視しています。

 私はオープンイノベーション推進本部も兼務しているのですが、スタートアップ企業との出会いは貴重な機会だと感じています。実際、ワコンクロス関連でも有望なスタートアップ企業と協力して、新しいビジネスが生まれつつあります。

パートナーシップを軸とした事業モデル

――リテール分野ではローソンとの協業を通じて、小売業界特有の課題解決に取り組んでいます。ローソンとの取り組みについて、具体的な進捗や状況を教えてください。

 ローソンとの取り組みは、KDDI全社を挙げたプロジェクトとして進めています。これは私たちのビジネス事業だけでなく、パートナーも含めた全体で改革案を共有しながら進めています。基本的なスタンスとして「ローソンファースト」を掲げていて、ローソンのために何ができるかを徹底的に考えています。

 具体的には、DXを通じ人手不足への対応を進めています。人手不足の中、店舗運営を効率化する必要性が高まっており、その課題解決に向けて取り組んでいます。2024年度はPonta(ポンタ)ポイントとの連携などが功を奏し、日販(1日あたりの店舗売上)が向上しました。これは多くのカスタマーが店舗で買い物をするようになったことを示しており、大きな成果だと感じています。

――具体的にどのような施策によって日販が上がり、カスタマーが増えたのでしょうか。

 「ポンタパス」というアプリを通じて、会員同士の交流やポイント獲得キャンペーンを展開しました。このアプリでは、ローソンの「あげすぎチャレンジ」など、カスタマーがポイントを貯めやすいキャンペーン情報を告知しています。

 当社が運営する「povo 2.0」では、ローソン来店時にギガ(データ容量)がたまる仕組みなども導入しています。こうした施策によって、ローソン店舗への来店促進や売上向上に貢献しています。

――なるほど。協調領域という言葉が印象的ですが、その背景やシナジーについて教えてください。

 現在、私たちは多くのパートナー企業や顧客と協力しながら、協調領域を広げています。ただし、協調領域がある一方で、各社が競争している部分も当然存在します。顧客は競争力の源泉となる部分、つまり知財(IP)を内製化したいというニーズを持っています。そのため、私たちが単に「これを使ってください」と提供するだけではなく、顧客の核となるアプリケーションや知財を尊重しつつ、それを支える基盤となるサービスを提供することが重要です。

 例えば(さまざまなソースから収集したデータをそのまま格納するデータ基盤)データレイクやID認証の仕組みといった基盤的な要素は、各社が個別に整えるには大きな投資負担がかかります。日本では特にサイロ化が進んでおり、それぞれが独自に投資することでスタートすら難しい状況に陥ることもあります。そこで私たちは、KDDIが持つスケールメリットを生かし、こうした基盤を従量制の月額サービスとして提供しています。これにより、顧客は初期投資の負担を軽減しながら、自社のアプリケーションや知財を、迅速に立ち上げることが可能になります。

 また、データ活用においても競争領域と協調領域を明確に分けています。ユーザーのデータは純粋に競争力の源泉として扱い、それを他社と共有することはありません。その上で、私たちは顧客の競争力強化を支援する立場として、協調領域の基盤提供に注力しています。

――国内大手通信3社の中で、このようなブランドの立ち上げは初めてだと思います。その差別化や先行性について、どう考えていますか。

 KDDIは、新しいテクノロジーを事業化する点で豊富な実績があります。髙橋誠会長や松田浩路社長をはじめとする経営陣も、多くのパートナー企業とのビジネス展開に積極的です。「一緒に事業を作りましょう」という姿勢が、他社との差別化ポイントになっていると思います。

 例えば最近では、石川県で警察と連携し、橋梁崩落地域などアクセス困難な場所で発生した交通事故現場へドローンを飛ばし、迅速な現場検証を可能にする取り組みも実施しています。このような新しい分野への開拓は困難ですが、一度成功するとそのノウハウや技術を標準化し、多くの顧客に応用できる形で展開しています。

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