三井住友銀行が「FA制度」導入 年間「5000件」を超える人事異動はどう変わる?:プロ野球でおなじみ(2/3 ページ)
三井住友銀行は2026年1月から、FA制度を導入する。プロ野球でおなじみのFA制度、三井住友銀行はどのように運用するのか。
ライバルはずっと同期──なぜ「年功序列」を廃止するのか
FA制度導入の背景には、前述した人事制度改革がある。
新たな人事制度では年功序列を廃止し、業務の領域(専門性)ごとに役割を定め、給与を決定する。
これまでは、同一年次内で評価の序列を付ける「階層」の考え方が根付いており、「分析的思考力」「対人インパクト」など、全従業員が同じ項目で評価されていた。ライバルは「同期」で、誰よりも早くマネジメントの役割を担うことができれば出世につながった。鮫島氏は「総合職の優秀な人材がマネジャーになり、役員になるのが一つのモデルだった」と話す。
「このモデルを作った当初は、法人向け、個人向け、預金、為替……など、全ての商材を同じ支店で扱っていたため、それら全てに対応できる総合職を育てることを重視していました」(鮫島氏)
DXの波、SDGsへの関心など社会が変化する中で、総合職だけでなく、専門的な知識を備え、プレイヤーとして活躍する人材の重要性も増してきたこと、人材の流動性が高まり、キャリア採用が増えたことなどを受け、新たな人事システムへの変革を決定した。
「若くても責任のある職務を担える従業員が、スピード感を持ってステップアップできる仕組みを導入しようと考えました。これまでは部署にかかわらず、『分析的思考力』などのコンピテンシー評価を活用していました。今後は、例えば人事であれば人事として求められるスキルが身に付いているかを重視した評価項目を導入していきます」(鮫島氏)
FA制度導入 従業員視点、企業視点それぞれのメリット
新しい人事制度は、専門性を持った人材を評価する仕組みの構築を目的としている。その中でFA制度は、従業員が持つ専門性の把握や、専門性の高い人材の発掘、育成をサポートしていくイメージだ。
FA制度の導入では、従業員のキャリアの選択肢を増やすこと、企業が全従業員のスキルセットを可視化し、把握すること──2つのメリットを見込む。
【従業員視点】キャリアの選択肢が増える
従業員が自ら判断、意思決定する機会を増やしたい考えだ。
「これまでは、配属された先でしっかり仕事をしていれば同期内での順位が上がり、評価される仕組みでした。人事が異動を打診する際も、『どの部署を案内しても、配属先で頑張ってもらえれば問題ない』というモデルでした」
「今後は専門性によって評価プールが変わるため、(三井住友銀行が定義する)どの専門性を磨いていきたいのか、マネジャーになるのか、プレイヤーとして活躍していくのか、各従業員に自身で選択してほしいと考えています。そして、その選択に責任を持って、自律的にキャリアをデザインしていってほしいですね」(鮫島氏)
【企業視点】従業員のスキルセットを可視化できる
企業側のメリットとしては、従業員のスキルセットを把握、可視化することで、よりスピーディーに適所適材な人材配置を決定できる。
三井住友銀行だけで約2万8000人、グループ全体で約13万人の従業員がいる。年間5000件程度の人事異動が行われているが、その多くは、人事が従業員のスキルセットや適性を判断し、決定していた。
FA制度の導入で、より現場目線での人員調達が可能に。募集するポジションにおいて必要な経験、スキルなどを各部署が定義し、実際に人員調達まで担えるようになる。
「『自助努力での組織運営』が、一つのキーワードになる」と北山氏。キャリア採用の増加で各部署でも“人を見る目”が養われてきたため、部署側が人事異動に関与できる範囲を広げる、FA制度の導入が実現したのだという。
FA制度で「人員が減った」部署への補償は?
プロ野球界のFA制度では、選手の移籍に伴い、移籍先球団が移籍元球団に対して金銭補償や人的補償をする対応がある。同行の制度では、FA制度の活用で“人員が減った側”への対応はどうするのか。
「これまでの人事異動と変わらず、人員が抜けた場合は何かしらの形で後任を補充します。これまでは人事が後任を決めていましたが、今後は公募、キャリア採用、FA制度の活用など、部署側で対策を練られるメニューが増加するというイメージです。もちろんこれまで同様、人事が適材適所を判断し、異動を案内することもあります」(鮫島氏)
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