Switch2登場で「レガシーIP戦略」はどう変わる? 任天堂IPのマーケ戦略の裏側(5/6 ページ)
任天堂のIP戦略をマーケティングの視点から深掘りしてみたところ、単なる過去作の移植やリメイクにとどまらない、緻密な戦略が見えてきた。
業界の再定義とプラットフォーム戦略という任天堂の野望
Switch2時代の任天堂の戦略を読み解く上で、もう一つ見逃せないのが、その「戦いの土俵」を広げようとしている可能性である。
近年任天堂は、従来あまり見られなかった動きを見せている。その一つが、PlayStationプラットフォームで人気を博したタイトルのSwitchへの移植だ。かつて、任天堂のWiiやDSは、直感的で簡単な操作や家族や仲間とのだんらんといったポジショニングで、PlayStationの高度な操作でのやり込みや美しいグラフィックによる没入感といったコアゲーマー向け路線とは明確なすみ分けを図っていた。
しかし、近年では「NieR:Automata」のような、従来であればPlayStationやゲーミングPCが主戦場であったような、ハイクオリティなグラフィックとコアなゲーム性を持つタイトルまでもがSwitchに移植されている。これは、任天堂がターゲットとするユーザー層を、従来のファミリー層やライト層から、より幅広いゲーマー層へと拡大しようとしている表れと解釈できる。
この動きを、経営戦略論の大家であるマイケル・ポーターの「ファイブフォース分析」の視点から捉え直してみたい。ポーターは、業界の収益性を規定する、業界内の競争、新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力という5つの競争要因を分析することの重要性を説いた。
任天堂は、長らく「業界内の競争」において、独自のポジショニングと強力なIPによって優位性を保ってきた。しかし、スマートフォンゲームの台頭や、動画配信サービスなどのエンターテインメントとの可処分時間の奪い合いといった「代替品の脅威」は増大している。また、PCゲームプラットフォームのSteamや、クラウドゲーミングといった新たな潮流は、「新規参入の脅威」ともなり得る。
こうした状況を踏まえ、任天堂は自社の「業界定義」、つまり戦うべき市場の範囲を、従来の「家庭用ゲーム機業界」から、より広範な「エンターテインメント・プラットフォーム業界」、あるいは「ゲーム&コミュニケーション業界」へと再定義しようとしているのではないだろうか。
その布石と考えられるのが、SwitchにDiscord連携機能が実装されるといったうわさである。Discordは、ゲーマーを中心に広く利用されているコミュニケーションツールだ。もしこれが実現すれば、Switchは単にゲームをプレイするだけのデバイスではなく、ゲーム仲間とつながり、コミュニケーションを楽しむためのハブとしての役割を強化することになる。これは、ゲーム体験を、プレイそのものだけでなく、それを取り巻くコミュニティやつながりまで含めた、より包括的なものとして捉える戦略と言える。
つまり、任天堂はSwitch2を通じて、ハードウェアとソフトウェア(自社IP+サードパーティタイトル)、そしてコミュニケーション機能を統合した、独自の強力なエコシステムを構築しようとしている可能性がある。これは、単にゲーム機を売るのではなく、「任天堂プラットフォーム」という体験そのものを提供するという、より高次元な戦略である。
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