星野リゾート、オーバーツーリズム解消狙う「山ホテル」とは? 「宿泊税」の是非にも代表が一言(1/3 ページ)
星野リゾートがメディア向けの発表会を実施した。新ブランドの立ち上げや宿泊税の導入、人材採用がサービスの質に及ぼす影響について考察する。
筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)
旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、日本ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など。
「星野リゾート LIVE2025春」オンラインプレス発表会が4月22日に開催された。新施設の開業など多くの情報が発表されたが、筆者はその中から、新ブランドの山ホテル「LUCY」、宿泊税導入の是非、事業拡大にともなう人材採用という3つのトピックに着目し、分析を加えてみることにする。
新ブランドは「山ホテル」
現在の日本の観光における最大の問題点は、一部の観光地で発生しているオーバーツーリズムであろう。2024年のインバウンドは前年比47.1%増の約3687万人と過去最高を記録した。主要観光地へ足を運ぶと、とにかく人・人・人という状況である。
オーバーツーリズムを引き起こしている原因は何かといえば、(1)長期的な円安基調という経済的要因、(2)ゴールデンウイークなどの連休を国民全体が同時に取得するという制度的な問題、(3)一部の都市や主要観光地に観光客が集中し、地方回遊が進んでいないこと(観光地間のインバウンド訪問率の格差)などが挙げられる。
(3)に関しては、インバウンド宿泊数の実に約70%を東京都、大阪府、京都府など上位5つの都道府県だけで占めており、過度な集中状態が発生している。これへの対応として、これまでもさまざまなことが言われてきたが、具体的・実効的な対策が打てずにいるのが実態だ。
その解決のヒントとして興味深いのが、今回、星野リゾートが発表した新しいサブブランド、山ホテル「LUCY(ルーシー)」である。現在、日本には361の山小屋(星野リゾート公表)があるというが、どうしても登山上級者・中級者向けのイメージがあり、初心者が利用するにはややハードルが高い。
そこで、本格的な登山を楽しまずとも、観光としてもっと気軽に山を訪れたい層の需要を掘り起こすという狙いが、この新ブランドにある。
「LUCY」の施設の具体的な内容を見ると、プライベートな寝室、清潔な温水洗浄トイレ、シャワー・パウダールームなどが完備され、食事も充実している。また山登りやハイキングに出掛けると、食糧・飲料水を確保しておく必要から、目的地までの「ラスト(最後の)コンビニ」を気に掛ける必要がある。「LUCY」はこのラストコンビニの役割も果たすという。第1号となる施設は9月1日、尾瀬に開業する予定だ。
この取り組みには、都市部に集中している観光客に対して自然観光や地方回遊を促す効果が期待される。もちろん、「LUCY」だけでは効果は限定的だろうが、「苦しい」「トイレが汚い」といった山の観光に対するイメージの変化が期待される点で興味深く、今後の動向が注目される。
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