JR西がQRコード決済に参入 “後発でも勝ち抜ける”と自信を見せるワケ:JR東と全然違う、独自の戦略(2/2 ページ)
JR西日本は5月28日から、国内鉄道事業者では初となる第二種資金移動業ライセンスを武器に、QRコード決済サービス「Wesmo!」(ウェスモ)を開始する。
西日本エリアで「新経済圏」を創出する
Wesmo!の狙いは単なる決済サービスにとどまらない。JR西日本が描く「段違いに便利でお得で楽しいWESTER体験」を提供し、「西日本エリア発の新経済圏を創出する」という中期経営計画2025の一環だ。
最大の特徴は、リアルタイムデータ連携によるマーケティング戦略にある。「決済データを、WESTERサービスの軸である移動生活を支えるWESTERアプリに、ほぼリアルタイムで連携する仕組みを新たに構築した」(内田氏)。5月28日のサービス開始と同時に実施する「スタートダッシュキャンペーン」では、決済完了から数分後にはスタンプが付与される仕組みを実装した。
将来的には、旅行先でWesmo!による支払いをすると、次に行きたくなるような場所をアプリを通じて提案し、回遊性を高める仕組みの構築を目指す。「決済アプリとWESTERアプリが連携し、ポイントを活用して地域の回遊性や購買を活性化し、地域経済が盛り上がっていく仕組み作りに挑戦したい」と内田氏は意気込む。
同社は2024年3月、ISMS認証(情報セキュリティマネジメントのISO規格準拠)を取得。データ活用とプライバシー保護の両立を図る。デジタルとリアルの融合により、利用者一人一人の行動データを活用した地域経済活性化のエコシステム構築を目指している。
取扱高「1兆円」規模目指す PayPayやd払いにどう勝っていく?
JR西日本は野心的な数値目標を掲げる。現在の1000万人を超えるWESTER会員に加え、Wesmo!のサービス開始から5年後に新たに300万人のユーザーを獲得し、J-WESTカードとICOCAを合わせた取扱高を1兆円規模に成長させることを目指す。これは国内キャッシュレス決済市場の約1%に相当する規模だ。
「複数の決済アプリを使い分けている中の一つとして選ばれることが大事だ」と内田氏は現実的なアプローチを示す。
先行するPayPayやd払いなどとの競争を勝ち抜くための戦略として、JR西日本は「WESTERポイントをいかに魅力的にしていくか」「移動と連携しながら、移動を促し、最終的にそこで決済していく」という2つの要素を挙げる。特にJR沿線利用者や出張・観光客に対する体験価値を重視し、「他社ではできない差別化だ」と自信を見せる。
2026年度中に実装を目指すICOCAチャージ機能も、同社の将来戦略の要となる。プラスチックカードのICOCAをスマホにかざすだけでWesmo!残高からチャージできる仕組みで、「ICOCAの発行者であり、かつ資金移動業者である当社Wesmo!だからこそできる機能」と位置付ける。これにより、デジタル弱者も含めた幅広い層が恩恵を受けるサービス提供を目指している。
Wesmo!は西日本エリアを中心としつつも、全国展開への意欲も見せる。「西日本を起点に日本全国でご利用いただけるというコミュニケーションをどう展開し、認知していただき、体験していただくか」を課題として挙げ、エリア展開の戦略にも言及した。
Wesmo!の登場は、成熟期を迎えつつある国内QRコード決済市場の新たな競争軸となるかもしれない。これまでの決済サービスが個人消費者の利便性向上に主眼を置いていたのに対し、JR西日本は小規模店舗の資金繰り改善や地域内経済循環の活性化という社会課題解決を打ち出した。駅を核とした地域経済圏の再構築という発想が、Wesmo!の独自性を示している。
交通事業者は単に人を運ぶだけでなく、駅周辺の商業施設、そして地域全体の経済活動をデータでつなぐハブとなり得る。決済データと人流データを組み合わせた観光地の回遊性向上や、駅から離れた商店街の活性化など、これまで別々に語られてきた「交通」と「決済」の融合が、地方都市や観光地に新たな経済モデルをもたらす可能性を秘めている。「移動」と「お金」の流れを一体化させる試みは、地方創生の新たなアプローチとして全国の自治体からも注目されそうだ。
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