JR西がQRコード決済に参入 “後発でも勝ち抜ける”と自信を見せるワケ:JR東と全然違う、独自の戦略(1/2 ページ)
JR西日本は5月28日から、国内鉄道事業者では初となる第二種資金移動業ライセンスを武器に、QRコード決済サービス「Wesmo!」(ウェスモ)を開始する。
駅の改札からショッピングまで、鉄道事業者が描く新たな経済圏構想が動き出した。
西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)は5月28日から、国内鉄道事業者では初となる第二種資金移動業ライセンスを武器に、QRコード決済サービス「Wesmo!」(ウェスモ)を開始する。すでに飽和状態とされる決済市場への後発参入だが、ICOCAやWESTERポイントとの連携、最大4.5%の高還元率、加盟店向け翌日入金など独自の強みで差別化を図る。
160万カ所で利用可能な決済インフラを足掛かりに、デジタルとリアルを融合させた「西日本発の新経済圏」創出の野心が見える。
「後発」でもJR西が参入する意義は? JR東と大きく異なるビジネスモデル
国内QRコード決済市場は既に成熟期に入りつつある。経済産業省の調査によれば、国内キャッシュレス決済比率は2023年に約40%に達し、そのうちコード決済は約15%のシェアを占める。PayPay(シェア約60%)を筆頭に、楽天ペイ、d払い、au PAYなど大手IT企業が激しい競争を繰り広げる市場に、JR西日本はあえて後発参入を選択した。
「キャッシュレス決済の中でQRコード決済が伸びていく中で、この分野でしっかりと成長していく必要性を感じている」とWESTER担当プロジェクトリーダーの内田修二氏は説明する。鉄道や駅ビルなどのリアルな接点を持つJR西日本にとって、決済データの活用は顧客体験向上の核心部分だ。「この5年間のデジタル戦略の取り組みの中で、決済データを活用してお客さまに価値を届けることの重要性を非常に感じている」と言う。
交通系事業者による金融サービス参入は国内でも珍しくない。JR東日本は楽天銀行と連携した「JREバンク」で預金や住宅ローンなどのストック型ビジネスを展開。これに対し、JR西日本は「お金を動かすフロー型」のビジネスモデルを選択した。「地域と共に成長させていただいている企業として、地域への貢献を考えた場合、ストックではなくフローの方が適している」と内田氏は差別化戦略を説明する。
グローバルに見ても、モビリティと金融の融合は加速している。中国ではアリババ傘下の高徳(Autonavi)や滴滴(Didi)など配車アプリが決済機能を搭載し巨大なエコシステムを形成。欧州ではドイツ鉄道が「DB Pay」を通じて乗車券予約から小売決済まで一貫したサービスを提供している。
「Wesmo!」の差別化戦略
Wesmo!は5月28日より、iPhone、Androidの両プラットフォームでサービスを開始する。IDにはJR西日本が運営する会員サービス・ポイントプログラム「WESTER ID」を利用する。JR西日本グループの商業施設に加え、SmartCode加盟店や専用NFCタグである「BLUEタグ」を設置している店舗を含め、全国約160万カ所で利用可能だ。
「Moving with Value」(あらゆる移動を価値に変える)をコンセプトに掲げる同サービスの最大の特徴は、WESTERポイントとの連携による高還元率にある。特に同社のクレジットカード「J-WESTゴールドカード」でチャージした場合、常時3%のポイントが貯まる。さらにJR西日本グループの店舗では決済時に別途1.5%が加算され、最大4.5%のポイント還元率となる。
「グループのお店で一番WESTERポイントが貯まるということは、駅ナカを中心としたご利用者のみなさまにポイントが貯まり、グループ店舗へのリピート利用によってトップライン(売上高)が上がる」と内田氏は説明する。併せて「キャッシュレス決済の手数料面でも内部管理が進み、結果として費用減になる。将来的には数億円規模で利益に貢献するサービスにしたい」と収益面での効果も強調した。
Wesmo!は決済だけでなく、割り勘や送金などの機能も備える。貯まったWESTERポイントは単なる決済利用だけでなく、ポイント交換商品の獲得にも使える。例えば8000ポイントで新大阪─博多間の新幹線が通常料金の半額相当で利用できるなど、「1ポイント1円以上の体験価値」を提供するという。
加盟店向けの差別化も鮮明だ。決済手数料は1.9%と業界標準より低く設定。BLUEタグを活用することで端末費用を抑制し、資金移動業の仕組みを活用して売上金を最短翌日に加盟店のアカウントに入金する。さらに企業間や加盟店との送金手数料を無料とするビジネス会員制度も用意した。
「キャッシュレス決済の導入や地域活性化に向けて、端末費用や決済手数料、売上金の入金サイトが長いことによる資金繰りの課題があると認識している」と内田氏。こうした社会課題の解決を通じて、地域経済活性化への貢献を目指す姿勢が見える。
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