映画館の席は奪い合い 配給会社と興行会社の“静かなバトル”:『映画ビジネス』(1/3 ページ)
映画の公開時期や上映館数の調整は、動員数を左右する重要な戦略だ。大作は大規模公開が基本だが、インディーズ作品は口コミで評価を広げる前に打ち切られるリスクもある。
この記事は『映画ビジネス』(和田隆/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
映画祭で受賞し、その前後にタイミングよく国内で劇場公開できれば、受賞効果がプラスされて動員増が期待でき、興行にとってベストですが、そのような作品は限られます。先読みして公開時期を決めていてもノミネートされるか、受賞するかは分かりません。
また、洋画は日本語の字幕を付けなければなりません。子ども向け、ファミリー向けのメジャー作品であれば日本語吹替版も制作し、両バージョンを同時公開する作品も増えましたが、インディ配給の作品は字幕版での上映が主流です。
買付けたり、製作した映画は年間にどのように公開(ブッキング)されるのでしょうか。大手映画会社の撮影所システムが機能し、ブロック・ブッキングがあった時代は、決められた上映期間で上映されていました。
しかし、シネコン(複合映画館)が普及すると、上映期間を決めずに上映するシステム、フリー・ブッキングが主流になります。洋画メジャー、インディ系の配給会社の作品は主にフリー・ブッキングで決められています。
とはいえ、松竹(松竹マルチプレックスシアターズ)、東宝(TOHOシネマズ)、東映(ティ・ジョイ)は、今でも関連の興行会社(グループ会社)のシネコンでブロック・ブッキングに近いシステムで年間の作品を編成しています。スクリーンが10スクリーン前後あるシネコンでは、ある程度決めていた公開期間が終了しても、ヒットしていれば引き続き公開館数や上映スクリーンを変えながら自社製作・配給の作品を上映し続けることが可能です。
これは洋画でもヒットすれば同じですが、最初に800スクリーン近くでブッキングした期待の高い大作でも、公開最初の週末3日間の成績が振るわなければ、翌週から公開館数を減らされ、席数の少ないスクリーンへ変えられてしまいます。通常のメジャー作品は平均300〜500スクリーンで公開されますので、800スクリーンでの公開は超大作、もしくは配給会社にとっての勝負作と言えます。
柔軟に編成できることがシネコンのメリットですが、インディの配給会社からすると時間をかけて動員を増やしていくような作品にとっては、口コミなどで観客に評判が広がる前に打ち切られてしまうというデメリットにもなっています。
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