日本製鉄は結局損したのか、得したのか?――USスチール2兆円買収、「黄金株」の重み(2/3 ページ)
日本製鉄によるUSスチール買収が事実上決着。しかし米政府の「黄金株」条件が重くのしかかる――巨額投資の行方と真価が試される統合劇の全貌とは。
米国政府の対応は「後出しジャンケン」?
黄金株は、外国資本による買収が国家の根幹にかかわるような企業に発行されることがある。近年では欧州のインフラ企業や通信企業などでも導入例があるものの、それ以外の国や業種では極めて珍しい制度だ。
黄金株は海外特有の制度ではなく、日本でも「種類株式制度」の一形態として導入可能であり、上場企業でも一社だけ、実際に用いられている例がある。
それはINPEX(旧:国際石油開発帝石、東京都港区)だ。該当する黄金株(甲種類株式)は経済産業大臣が1株だけ所有している。
なお、拒否権行使には法令による制限があり、黄金株の効力は緊急事態に制限されているのが実情だ。
日本において、この制度が民間企業で用いられる例はごくまれだ。基本的には政府にとって重要な企業は「黄金株」を用いるのではなく、政府が議決権の過半数を維持し、経営そのものを支配するという構造が「王道」なのである。
今回のUSスチール買収における黄金株は、一見、それと同様の論理に基づく国家的制御にも見える。しかし、当初から黄金株を発行していたINPEXと異なり、USスチールは、買収の可能性が浮上して初めて黄金株を導入したという「後出し」の姿勢はアンフェアではないかと筆者は考える。
そこまで重要な会社であるなら、初めから黄金株を発行するか、同社が苦境に陥る前に政府が過半数の株を保有しておくべきだったのではないか。そもそも、本当に国家として重要な位置付けの企業ならば、業績は安定して然るべきで、苦境に陥ること自体が矛盾しているはずだ。
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