白鬚神社・高麗神社――東武東上線沿線から探る、日本に残された“異国”の地名ミステリー(1/4 ページ)
2025年で100周年を迎える東武東上線。その沿線に広がる「鶴ヶ島」「白鬚神社」「高麗神社」──地味なローカル地名に見えるこれらは、実は朝鮮半島から亡命した王族の痕跡だった。古代日本における多文化形成の核心を、地名と鉄道から読み解く。
筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)
旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。日本ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)などがある。同書は日本旅行作家協会より第7回「旅の良書」に選出。2025年6月より神奈川新聞日曜版にて「かながわ鉄道英雄伝」連載開始。
2025年7月10日、東武東上線は池袋(東京都豊島区)−寄居(埼玉県大里郡寄居町)間の全線開通から100周年を迎える。これを記念して東武鉄道では7月13日から100年前の客車の色である「ぶどう色」に塗装した車両1編成を走らせるなどの記念事業を行う予定だ。
今回は、東武東上線の鶴ケ島駅へとまずは向かう。池袋から急行で約40分、埼玉を代表する観光地・川越駅の3つ先の駅である。
鶴ヶ島の地名の由来は?
「鶴ヶ島って、どこにある?」と聞かれたならば、もしかすると多くの人が、地図で八丈島の周辺や小笠原諸島を探すかもしれない。だが、鶴ヶ島市は埼玉県のほぼ中央に位置する。
「海なし県」の埼玉になぜ「鶴ヶ島」という地名が存在するのか。その答えは、関越自動車道の鶴ヶ島ICを下りてすぐの西入間警察署のすぐそばにある「地名“鶴ヶ島”発祥の地記念碑」を見れば分かる。
その昔、この辺りは池を中心とする湿地帯が広がっており、その池に浮かぶ島の「松の樹に鶴が巣を作り、ひなを育て、やがて大空高く飛翔した」(記念碑の碑文)という言い伝えがある。鶴は長寿の象徴でもあるように縁起がいいことから、1889(明治22)年に、近隣の村々や新田と合併して新たな村を発足させるにあたり、「祥瑞であるとされる『鶴ヶ島』という村名を新たに採用した」(『鶴ヶ島町史』)のだ。
この昔話に登場する池は、今も存在する。記念碑の場所から南へ1キロほど離れた場所にある雷電池(かんだちがいけ)がそれである。現在は児童公園内の小さな池になってしまっているが、かつては相当に大きな湖沼だったのだ。
雷電池では4年に一度、鶴ヶ島市を代表する民俗行事「脚折(すねおり)雨乞」が催される。麦わらや孟宗竹などで長さ36メートル、重さ約3トンもある「龍蛇(りゅうだ)」を作って雨乞いする、大変に勇壮な祭りだ。祭りの日、龍蛇は近隣の白鬚(しらひげ)神社で入魂され「龍神」となり、約300人の男たちに担がれて神社から池まで約2キロを練り歩き、最後は池の中に入り動き回る。
実は、今回の記事の本題はここから先だ。龍神の入魂が行われる白鬚神社の所在地は鶴ヶ島市脚折町だが、隣接して「高倉」という地名がある。そしてこの「白鬚神社」と「高倉」という2つの地名のセットが遠く離れた神奈川県にも存在する。
しかも、それは単なる偶然ではない。この地名のミステリーを追いかけてみよう。
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