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日テレの「何も話さない」会見は必要だった? 国分太一氏降板に見る企業のリスク判断軸

6月20日に日本テレビが開いた記者会見。こうした会見の在り方が企業にとってどのような意味を持つのか、記者会見の設計において“語らない”という選択がどう受け止められ、実務にどう生かせるかを、危機管理広報の視点から掘り下げる。

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 「聞かないでください」と言われると、つい気になってしまう。そんな経験はありませんか。情報を制限されると“逆に知りたくなる”──これは心理学で「カリギュラ効果」と呼ばれる現象です。

 例えば「期間限定」や「〇〇な人は見ないでください」といったマーケティング手法は、まさにこの心理を巧みに利用したものと言えるでしょう。

 6月20日に日本テレビが開いた記者会見は、まさにカリギュラ効果が働いたと言えそうです。詳細を一切語らず「プライバシー保護のため」とだけ繰り返す姿勢が、図らずも世間からの関心を集めました。

 メディアからは「なぜ会見をしたのか」「詳細を語らないならリリースだけでよかったのでは」といった声が相次ぎ、この会見そのものが議論の的となりました。

 本稿では、こうした会見の在り方が企業にとってどのような意味を持つのか、記者会見の設計において“語らない”という選択がどう受け止められ、実務にどう生かせるかを、危機管理広報の視点から掘り下げています。


6月20日に日本テレビが開いた記者会見は正しかったのか?(写真提供:ゲッティイメージズ)

会見は必要だった? 国分太一氏降板に見る企業のリスク判断軸

 国分太一氏は、TOKIOのメンバーとして長年親しまれてきたタレントであり、番組MCやCM出演なども多く、公共性の高い活動を行ってきた人物です。

 所属する株式会社TOKIOは、かつてのジャニーズ事務所(現:SMILE-UP.)から独立した形で設立され、いわゆる「身内の自立組」として注目されていました。

 6月20日、日本テレビは「コンプライアンス上の重大な問題が確認された」として、長寿番組『ザ!鉄腕!DASH!!』から国分氏が降板すると発表し、社長が記者会見に臨みました。

 発表を受け、スポンサー各社・関連テレビ局は極めて迅速に対応を行い、ほぼ全面的な広告撤退・番組打ち切りが相次ぎました。テレビ局(TBS・テレ東)も早急に編集対応を実施し、ACジャパンのCMなどに差し替えました。


【スポンサー各社とテレビ局の動き(2025年6月25日現在、筆者作成)】

会見をするなら、どんな準備が必要か

 今回の会見に対する著者の感想としては、とても完成度の高いもので、好印象を持ちました。アンガーコントロールも取れていて、キーメッセージも一貫していました。会見の冒頭で、「会見は視聴者に向けたもの」と明確に伝えたことが、よかったと思います。

 『鉄腕DASH』は長年にわたり親しまれてきた番組であり、その番組に対して誠実であろうとする姿勢がはっきりと出ていました。関係者のプライバシーに配慮することを優先順位の高い判断としたこと、それ自体もひとつの企業姿勢ですし、中長期的に見れば視聴者との信頼関係につながっていくと感じました。

 ただ一方で、あえて言うなら──「会見をやらなくてもよかったのでは」と考えます。理由はシンプルで、発表された内容に「プレスリリース以上の情報」がなかったためです。

 もちろん、会見を開かないことで「なぜ何も説明しないのか」と問われる可能性もあります。そうしたジレンマを抱える中で、何を優先するかを整理したうえで「やる・やらない」を選ぶことが、結果的にはブレのない広報姿勢につながっていくように感じます。会見を開くと、記者たちは「リリースには載っていない何か」を探しに来ます。

 単に事実の確認だけでなく、「企業としてどう受け止めているのか」「同じことが起きないために、どんな視点を持っているのか」といった、“その先”の姿勢や方向性を引き出そうとします。特に危機対応の場合、企業がどう考えて意思決定に至ったのか、そして今後どう対応していくのか──そのあたりに“企業の本音”がにじむからこそ、記者は質問を重ねるのです。

 例えば、再発防止策についてヒントがあったり、仮に詳細が語れない場合でも「どういう判断軸でこの対応に至ったか」だけでも共有できたりしていれば、見ている側に伝わるものは違ってきます。

 そういった“会見を開いたことによるお土産”を渡せない場合、リリースだけでも十分というケースもあると感じています。

 著者が記者会見のサポートをするとき、よく「服装は黒のスーツですか?  紺ですか?  ネクタイの色は?」と聞かれることがあります。しかしそんなことは些末なことで、派手すぎるものを避けるなど常識の範囲内であれば、記者が注目するのは服装よりも、話す中身とそのスタンスです。

 何を語るかよりも、「どう向き合っているか」が見られているという前提で、準備をするほうが自然だと思います。会見をやるかやらないかに関わらず、9割は準備の段階で結果が決まる──そんな印象を、現場で感じることは少なくありません。

“記者会見を開く”という判断の前に

 日本テレビの今回の会見は、形式としてはとても丁寧で、伝えたい相手も明確でした。「なぜこの場が必要なのか」「誰に向けたものなのか」をきちんと整理したうえで開かれていたことが伝わってきました。

 ただ、それでも「話さないなら、会見をやる意味はあったのか?」と疑問が残る人がいたことも事実です。それくらい、いまの会見には“何を話すか”以上に、“どんな意図で開くか”が問われるのかもしれません。

 たとえ情報が限定的であっても、視聴者や顧客に向き合おうとする姿勢が見えれば、それはそれでしっかりと伝わります。だからこそ、「どう伝えるか」を一つ一つ考えながら、無理のない形を選べるといいなと感じます。

 記者会見という選択肢は、“誠意の証”ではありません。会見を開かずにリリースのみで対応する場合でも、語れる範囲で少しだけ補足コメントや「どこに配慮しているか」を入れるだけで、伝わり方は変わってきます。

 受け手にとっての納得感は、形式よりも工夫の積み重ねから生まれるのだと思います。  会見という手段を使わずとも、誠実さは伝えられるし、伝え方の工夫で結果は大きく変わるものです。やるかどうかを悩むときこそ、“伝えたいことが何なのか”をシンプルに立ち戻ってみることが、良い判断につながるのかもしれません。

著者紹介:大杉春子(おおすぎ・はるこ)

レイザー代表取締役/RCIJ代表理事

コミュニケーション戦略アドバイザーとしてPR戦略の企画から危機管理広報まで、企業・行政のブランド価値向上を包括的に支援。

日本において唯一、コミュニケーション戦略におけるリスク管理に特化したカリキュラムを展開する日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)を2020年に設立。

上場企業や防衛省での豊富な実績を持つ。

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

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