「ヨーカドーのポッポ」はまだ生きている――“昭和の軽食処”のさりげない進化(6/6 ページ)
ピーク時の145店舗から24店舗に縮小したフードチェーン「ポッポ」だが、実は着実に売り上げを伸ばしている。その戦略に迫った。
「個店」のような顧客対応
実は木場店でも、売上低迷とクレームに悩まされた時期があった。その時のことを、池田店長はこう振り返る。
「『ただ売れば良い』と考えていたのかもしれません。でも、今は『うちにはこんな商品がありますよ』と、お客さまに提案しながら接客しています。そうした姿勢がお客さまに認められて、常連になってくださる方もいます」(池田店長)
では、具体的にどのような提案をしているのだろうか。
「旨辛ネギというトッピングは味噌ラーメンに入れられることが多いのですが、意外と塩ラーメンにも合います。それをある女性のお客さまに勧めたところ、『チゲっぽくなっておいしかった』という感想をいただきました。その声を、また別の提案の際に生かしています」(池田店長)
こうした取り組みにより、客単価のアップと顧客満足度の向上を両立させている。
また、常連客の好みを覚えることも重視している。
「ネギが嫌いな常連のお客さまがいるのですが、言われる前に『ネギ抜きですよね』とお声がけしています」と池田店長は語る。
つまり、ファストフードチェーンでありながらも、ポッポは「個店主義」を採用しているのだ。渡辺氏は「こうした対応は、回転率が重視される駅にあるそば屋さんなどでは難しいと思います。イトーヨーカドーの中にあるポッポだからこそできると感じています」と話す。
チェーンでありながら“人”による差別化ができているのが、ポッポの強みだ。そんなポッポで7年以上働いている池田店長にとって、仕事のやりがいとは何だろうか。
「お客さまから『おいしかったので、また来ますね』と言われることが活力になりますし、本当にうれしいです」と顧客との絆の大切さを口にする。
ポッポは開業50年を迎え、規模の拡大ではなく、地域密着型に加え、商品や接客サービスなどの品質向上によるビジネス価値創造を選択した。原点である「休憩所」としての精神を受け継ぎながら、現代の消費者ニーズに応える姿勢が、このブランドの新たな成長を支えているといえよう。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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